SIREN〜序〜

□プロローグ
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 小鳥のさえずりが聞こえるのどかな朝。今日も平和な一日が始まる。僕――名はシグと呼ばれている――は、同棲している彼女――名はアミティと呼ばれている――と一緒に、新聞を読みながら朝食を食べていた。
「それにしても、ここの所変な事件が多いねー」
「新興宗教絡みの謎の落書き事件だっけ? しかも魔法を使っても薬品を使っても消せないとか、迷惑だよ全く……」
 謎の落書き事件とは、狙われた店、あるいは場所とでも言うのか……に、赤い水みたいな何かで落書きされるという事件だ。商品とかへの被害は一切無いのだが、この赤い水と言うのが厄介で、何を使っても消すことができないという。とりあえず隠すことはできるらしいので、何かを上からかぶせたりすることで何とかしているみたいだが……。被害に遭っている基準というのが特に無いのか、肉屋が襲われたりデパートの洋服品店が狙われたり、はたまた近くのナーエの森の中だったり、とにかく無差別と言っていいくらいのでたらめな狙いで襲われていた。ただ一つ、共通点があるとすれば……なんだろうか。プリンプ魔導学校を中心とした一定距離にある場所、くらいだろうか。そのせいで一時は僕達生徒も疑われたりしたんだけど、するメリットが特に無いこと、落書きの内容が最近できた新興宗教絡みのものだったってことで、すぐに僕達の疑いは晴れた。けれど不気味なことこの上ない事件であることは間違いない。さて、そろそろいい時間になってきた。
「そろそろ学校に行こうか」
「うん」
 僕はアミティと一緒に家を出て、学校へと歩みを進めた。


「……なんだこりゃ」
 学校について最初に目にしたのは、一面赤い水がぶちまけられている光景だった。アコール先生をはじめ、多くの先生方、そして生徒が消しにかかっているが、とても消えそうには無かった。むしろ、魔力を使えば使うほど、赤色が増しているようにも見える。……そういえば、魔力という単語で気づいたが、魔力の流れがおかしい。まるでこの赤い水に集まっていっているような感じがする。しばらくして諦めたのか、先生方が臨時休校措置をとることに決め、すぐさま魔法の手紙で各生徒へと伝えられた。生徒が次々と帰っていく中、僕はその中の一人のクルークと呼ばれている男子生徒へと話しかけた。
「おはよう。もしかして朝から駆り出されたのかい?」
「おはよう、シグ、アミティ。全くその通りだよ。朝からアコール先生に呼ばれて来てみれば、学校がこの様さ。全く、消す係になるこっちの身にもなってほしいね、落書き犯は」
 そう言って肩をすくめたクルーク。とりあえず彼に対しては、ご愁傷様、という単語しか浮かばなかった。


 やることが無くなってしまった僕達は、暇なのでプリサイス博物館で勉強でもしようと考えた。丁度来月提出のレポートの課題もあるので、この際済ませてしまおうと考えた。
「こんにちはー」
「……よく来たクマ」
 出迎えたのは、この博物館の館長であるあくま……と呼ばれている、動く黒クマのぬいぐるみみたいな何か。本人曰く千年以上生きているらしいが……真偽のほどは正直よくわからない。しかし博識なのは確かであり、僕達もよく助けられた。いつもは温和な表情をしている館長だったが、どうやら今日は様子が違うようだった。
「御主達に話があるクマ。ついてくるクマ」
 やや険しい表情をしながら僕達にそう言った館長。何か悪いことをしたかと思い返してみたが、全く心当たりが無い。しかし行かないわけにもいかなさそうな雰囲気だったので、とりあえず僕達はついていくことにした。


「お邪魔します……あ」
「あら、こんにちは。学校が休みになったから勉強でもしにきた所かしら?」
 入った部屋にいたのは、イリアさんとシェイドだった。言って信じられるものではないかもしれないが、この二人は僕達にかなり関係ある人物だった。イリアさんはアミティの祖先で、所謂太陽の女神だった。シェイドは僕の片割れ……と言っても何のことかはわからないと思うから、今は詳しい説明は省く。どうやらこの二人は館長に呼び出されたらしい。4人が着席したことを確認した館長が、座って話し始めた。
「……今から話すことの真偽は、各々で判断してくれて構わないクマ」
 そう前置きしてから、館長はゆっくりと話し始めた。


「……という事クマ」
 館長の話は数時間に及んだ。そしてあまりに荒唐無稽な話に聞こえた。しかしどこか、嘘と言い切れない信憑性があった。その話の要点はこうだ。

・赤い水は禁術の触媒
・禁術が発動すれば、プリンプタウンは赤い水の海に囲まれた死の街と化す
・禁術により生み出される赤い水は、人間を異形の生物へと変化させる作用を持つ
・禁術を解くには巨大神(みたいなもの)を殺す必要がある
・巨大神は非常に強力だが倒せない相手ではない

 まるでホラーファンタジー映画のような話であったが、ここ最近の事件を見ていると嘘とは言い切れなかった。だが、ここで疑問が一つ浮かぶ。
「どうして僕達だけにこのことを? 話すなら、イリアやシェイドはともかくとして、アコール先生とか適任者が他にもたくさんいる気がするんですが」
 それに対して、館長はこう即答した。
「御主達が特殊な力を有しているからだクマ」
 ……確かにイリアは太陽の女神、アミティもその力を受け継いでいる。シェイドは紅き力を扱うことができるし、僕はもう片方の蒼の力を使うことができる。……どうやら、これが切り札にでもなるのだろうか。そう考えていたときだった。突然大きな地響きが発生し、次いで耳を塞ぎたくなるような、大きなサイレン音が鳴り響いた。
「……始まったクマ……」
 立っていられない様な揺れと爆音の中、僕はふと目を学校のほうへと向けた。そして僕は見てしまった。

 異形の巨大生物が、まるで学校へ吸い込まれるように空から降りて来たのを。
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