パラレル〜現役の「彼」がグレルの上司だったら〜
□A
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「着いて来い。お前に見せたいものがある」
「え…あの、まだ今日のノルマが終わってな…」
有無を言わせず腕を掴み、死神の能力で空間を抜ける。
「ここは……」
グレルが初めて人間界に来た時に降り立ったという、丘の上だ。そこからは、街の灯りが一望できる。
文明の発達とやらのため、都市部では灯りが増えた。宝石箱をひっくり返したように、とまではいかなくても、その場所が「夜景スポット」なのは確かであった。
「地上は、たまに美しいんだ。だから、たまには見甲斐のあるレコードの持ち主もいる」
「………」
「何なら、俺のレコードを見せてやろうか?」
足下に散らばる街の灯り。見上げた空には弱々しい星の光。人間の文明とやらは、いまだ大きな力にはなり得ず、撒き散らす二酸化炭素の量もたかが知れているから、夜空は澄みきって見える。
それらとは比較にならない存在感で、上官たる自分に臆することなく見つめ返してくる、ペリドット・グリーンの瞳。
他の死神と同じ色なのに、グレルのそれは、北国の人間が希望を見出す太陽を連想させる。
「―――んっ……」
我知らず合わせた唇は、戸惑いを隠せないながらも、しっとりと吸い付いてくるかのようで、心地よい。
(こんなキスが、出来るんだな……)
この青年……まだ、少年と言っても良いかもしれないグレルは、これからどんな死神に成長していくのだろう。
それを間近で確かめてみたい。
この性格だから、敵を作ることも多いだろう。上層部ともめごとでも起こせば厄介だが、そうなったとしても、自分はグレルの側に立つだろう。
あからさまに味方についてやったとて、グレルは喜ぶまいが。
(俺も、どうかしてるな……)
かすかな自嘲と、大人しすぎるグレルへのからかい半分、華奢とも言える体の線を撫でてみる。
「――ちょっとォ!調子に乗って、ドコ触ってんのッ!」
途端、威勢良く左腕をねじ上げられる。
「…いつものお前らしい反応だな」
ほら、お前の瞳が、また輝き出した。顔なんか、夜目には髪と同じくらい真っ赤になっているように見えるぞ。
……見飽きない奴だ。
「な、な…何……っ」
とっさのことに本気で抵抗してきたであろうグレルの利き腕を易々と外せるのは、自分くらいだ。
「その元気でどんどん働いてくれよ、グレル」
初めて名前で呼んでやると、固まってしまう。
つくづく、面白い反応をするものだ。
「とっとと戻るぞ」
お楽しみの続きは、また今度だ。
続く
前回の「先日の出来事」を少ーしだけ書いてみました。
グレル視点の次は、「彼」の視点も書かなきゃいけない気になりまして……その結果、今回は進展がありません。
20111213