パラレル〜現役の「彼」がグレルの上司だったら〜

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現役テイカー×新米グレル 自己満足オリジナルもどき小説




その日、彼は一人の部下を部屋に呼び出した。


指定した時刻よりいささか遅れ気味であるが、赤い髪を揺らして部下のグレルが入って来る。


「失礼します」

律動的な足取りが少し乱れたのは、ちょうどドアから真正面の位置に置かれた花瓶でも目に入ったのだろうか。

あの時、床に落として割れた花瓶の代わりだと、気付いたのかもしれない。


――いかんな。


彼は自嘲気味に心の中でつぶやいた。

先日の出来事を思い出すと、氷像のようだと称される相貌が緩んでしまうのが、自分でもわかる。



「異動願いを出したそうだな」


奥の椅子に座って、真正面から見据えながら声をかけると、グレルは目を逸らす。

「もう外回りなんてたくさんヨ。何が起きるか、わからないし…」

いつも賑やかすぎるほど賑やかで、自信と自己顕示欲に溢れているグレルの声が、今日は弱々しい。


「俺と一緒でも、か」

「……はい」


最大限の譲歩を口にしたつもりなのに、この反応だ。
さすがに参ってしまう。



人間界単位で数ヶ月前のこと。
グレルが死神派遣協会に入って来るにあたって、上層部でちょっとした議論が展開された。


実技評価トリプルA、倫理評価C。そのような偏った能力値の者は、組織に属することにそぐわないのではないか。


いや。そういう奴ほど面白いんだ。どんな死神に育つか……俺が育ててみようじゃないか。


死神派遣協会の頭の固いお偉方に一泡ふかせてやりたくて、彼はグレルを直属の部下にした。

売り言葉に買い言葉で取った行動のようでいながら、彼には「勝算」があった。グレルの死神としての能力は、間違いなく高い。



そして先日、連れ立って魂の審査に出向いた時のことだ。

ある人間の、陰惨で醜悪なシネマティック・レコードを確認する途中に、グレルはパニックに陥った。


レコードを見たくらいで気分を悪くするとは、思わなかった―――


あの時、彼はそう言った。彼の誤算であり、思い込みだった。


どれほど能力が高かろうと、グレルはまだ新神(ジン)だ。あまたの場数を踏んできた自分と同じようにはいかなくて当たり前だ。

グレル相手だと、つい期待値が上がり、無理を強いてしまうようだ。これ以上の負担を強いるより、安穏な日常業務から慣らしていくのが本当だろうと、頭ではわかっているのに。

もっともグレルは、それくらいで壊れるヤワな神経の持ち主ではない。そうも直感していた。


(自力で打開できないなら、俺が策を講じてやる)


他の死神どもに、こいつは扱いきれない。自分になら、自分にだけは、それができるはずだ。

日が経つにつれて、その感覚は確信に変わってゆく。



(これから、どう変わる?)


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