一次小説
□親衛隊嫌われ物語
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『俺の好きな人』
俺の好きな人は、俺が嫌い。
それは分かっていた。
分かっていたから、ただ側で見ていたかった。
それだけで良かった。
どこで変わったのだろう?
俺自身にも分からない。
*****
私立・龍ヶ丘学園。
古い男子校であり、山の中の閉鎖された全寮制のこの学校の生徒はゲイとバイが大多数を占めている。
ノンケでも周りに触発されて大体がバイになる。
そしてその中で生徒たちを束ねる生徒会メンバーは抱きたい・抱かれたいランキングで選出されるため、見目が良い。
そんな彼らを周囲の欲望から守るために作られたのが「親衛隊」という組織である。
俺はその親衛隊の中でトップに君臨する総代だった…そして俺の好きな人は、この学園に君臨する生徒会長その人である。
*****
風が、吹き付けている屋上で、俺は貯水タンクに凭れて、こそこそと隠れていた。
これも親衛隊の仕事だと心の内で何度も言い訳をして・・・本当はただ貴方を見ていたかった。
「月宮会長、僕、会長のこと好きなんです」
今、俺の目の前では告白の真っ只中だ。
小柄な男子生徒が呼び出した相手の名前は、月宮 蒼璽。
俺の・・・想い人。
屋上の風に彼の艶やかな漆黒の髪が揺れている。
彼を見たら他の人間は霞んでしまう、それぐらい鮮烈な人だ。
彼に会った人間は彼を無視できない。
けれど会長自身はそんな自分の魅力に頓着などしていなくて、その端正な顔を歪ませて、屋上の風に攫われる漆黒の髪を片手で抑えた。
そんな動作も様になっていると思うのは、俺の贔屓目だろうか。
「俺はテメェなんか、どうでも良い。」
冷厳な声で言い放たれた言葉は切り捨てるもので俺自身が言われた訳でないのに心が冷えた。
「でもそうだな、今夜だったら抱いてやっても良い。」
けれどなお続けられた会長の言葉に俺の胸がツキンッと痛む。
もう諦めてる筈なのに、この痛みだけは慣れない。
そうか、抱くのか。
なんとなく、そんな気はしていた。
可愛い、守りたくなるような容貌の少年は、会長の好みのタイプだから。
俺も馬鹿だ。
こういった告白の場面は何回も見てきて、慣れた筈なのに胸が軋むのを止められないなんて。
ゆっくりと距離がなくなって、目の前で口付ける二人に、俺は思わず顔を背ける。
俺の方が先に会長と出会って、俺の方が会長の側に居るのに・・・口付けなんてしたことはない。
手に触れたことも、笑顔を向けられた事も。
一度で良い、求められて触れて欲しいと思う俺は浅ましいのだろうか?
今、口付けられている少年が羨ましくて、たまらなくて、思わず自分の唇を指でなぞってしまった。
会長が俺に振り向くことなんて無いのに、どうしようもなく好きなんだと自覚する。