ギャグ漫画日和

□必要性
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必要性
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「鬼男さん…」
「なんですか?」
「少し出かけてきます」
「気をつけて」
「はい」

こんなやり取りも慣れた。事故死した私を出
迎えたのは、どこか浮いた別れ道。大きな机
同様に座り私を見つめる若い人。いや「閻魔
大王…」はニンマリと愉快そうに笑みを浮か
べる。そして私に一言。「君、お気に入り決
定!」何がお気に入り?

「えっ…」

驚く私とは打って変わってニコーと笑みを見
せる。途端にボカンと言う音と共に閻魔大王
が転げ落ちた隣に立っていた鬼に頭部を殴ら
れたようだ。

「何がお気に入りですか……仕事ですよ」

冷たく言い放つ鬼に私はビクッと肩を震わせ
たそんな私を見てか、鬼は悲劇に満ちた表情
を見せた。正しく言えばそんな感じに見えた
のだ。この状況に付いて行けない。そう思い
ながら天国か地獄なのか私は判決を待った…
…筈なのに。「はい、次の人ー」……あれ?

「あのっ…」
「ん、なーに?」

得意げな笑みを見せる彼に私は胸がはじける
感覚がした。ううん、今はそんな事考えてい
る暇じゃない。震える唇を必死に開けて声を
発した。

「私はどうすれば……」
「どうする?……あっはは!」

唐突に笑いだした彼に私はキョトンとしてい
ることだろう。だけど、それよりも私は追加
された言葉によって頬染めたに違いない。鬼
が呆れている。

「なーに言ってんの、俺が気に入ったってい
ったじゃん!」

ポンと私の頭部に乗った掌に久々の温もりを
感じた。この人も生きているんだ……湧き上
がる安心感に私は涙した。もしかしたら、こ
こが天国かもしれない。




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あの時は本当に感謝している。誰にも必要と
されなかった私が初めて必要とされた。まさ
にこれが不可思議な光景だろう。微かな温か
みを保つ岩場へと私は寝転がった。風なんて
、こんな世界にもあるんだ。不意に名前を呼
ばれた気がして目を覚ます。……気のせいか
な、もう少しだけ。


暫くして私の元に大王が来たことは知らない
。それでも、私を必要としてくれるのなら、
私は彼に尽くそう。甘い感情は隅に置いて…
…。


必要性
こんなに儚い気持ちになるなんて…


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