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□悪魔男
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・燐と志摩は昔からの馴染み。
・神父と書いてじじい










塾の帰り道。
最近は夕方と言える時間帯も薄暗く、肌寒い。
俺は早々に扉をあけ、帰路に着いた。

「燐くん!」

俺のことを、誰かが呼び止める。
誰か、と言っても俺の名前を呼ぶ人間は、俺の知る中で一部だけだ。
幼馴染みの、志摩廉造。
志摩家と神父が仕事関係にあって、昔から仲良くしている数少ない友人。

「志摩、」

歩いている足を止めると、志摩が息を切らしながら俺の隣に立った。
どうやら走ってきたらしい。

「寮まで一緒に行こうやー」

「んー、別にいいけど、俺とお前の寮、反対だぞ?」

「ええねん、ええねん。燐くんの方が大事やし」

大事?と聞こうとしたが、俺が何を聞こうとしたのかをいち早く察した志摩は、こっちの話や、と笑う。
ほな行こか、ハートが付きそうな調子で(絶対付いてる)言うと、志摩は俺の手を引いて歩き出す。
つい、いきなりのことで、今日痛めた足が痛くて、コケそうになる。
あ、ヤバイかも。

「...?燐くん、大丈夫か?」

「あ、悪い悪い、ちょっと体育で足捻っただけで」

「見せてみ?」

「っ、本当大丈夫だから!たいしたこと...ねーし......」

「燐くんは嘘吐くん下手やなあ、...見せてみいや」

異常に気付いた志摩が、心配そうな声色で聞いてくる。
が、目は何かを見下すかのように冷たい。
これはまずい、と思わず冷たい汗が頬をつたう。
ここ何年か、こういうときの志摩は俺の弟の雪男がマジギレしたときくらいに怖い。
特に、俺が誰かから怪我を負わされたとき、とか。
幸男もそうだが、志摩はまた一段と酷いのだ。
何が、って相手に対しての報復が。
自分のことを思ってくれてるのか、と自惚れる感じはあるが、嬉しい。しかし、些か乱暴すぎる。
例に、顔にかすり傷を負わされた程度で相手にそれ以上の傷を負わし、入院させたときは、思わず脱力したものだ。
今回も、相手の名前を教えたらどうなるかが目に見えている。
俺は嫌な想像を頭から退けるために、横に振る。
その時、よいしょ、という小さな掛け声と共に、怪我をした方の足が上がった。
思わず変な悲鳴があがり、それと同時に、近くにあった花壇の塀に座らせられる。
かんにんなあ様子見るだけやから、と言われたからには、その厚意を受け取るしかない。
どうしよう、どう説明しようか。
相手が可哀想なことになる前に、どうにかしなくては。
冷や汗を垂らしながら馬鹿な頭で考えてみるが、良い案はまったくと言って良いほど浮かばない。

「あっちゃー、めっちゃ腫れとんなー。痛ない?」

「あ、うん、別にもう」

「ほうかー。で、燐くん?燐くんこないな傷付けさせたんは、どこのド阿呆なんや?」

本題、突入。
当初の優しげな声はどこへやら。
顔は清々しいほど笑っているというのに、声色はまるでRPGのラスボス魔王並だ。

「い、いや、これは俺が事故っちゃって!その、階段を踏み外したぐらいだから、ハ、ハハ...」

沈黙が怖い。
どうやら嘘がバレてるようだ。
うん、超怖い。雪男が可愛く思える!

「た、田村だって悪気があったわけじゃな、......あ、」

「ふーん、田村いうんか、そいつ」

自分の馬鹿さというか口の軽さというか。
恨むぞ、俺。
今にも殺、いや、仕返に行きそうな志摩の腕を、ぐいと引っ張る。
志摩は少し驚いたようで、殺気を引っ込めた。

「?燐くん?」

「大、丈夫だから。俺は平気。仕返して、志摩が退学みたいなことになったら、俺やだ」

「......」

「...れんぞー」

志摩の体が大きく揺れる。
名前呼びが最近こいつに効くと気付いていてよかった。

「...燐くんは、そいつになんかしたん?」

「え?この前ケンカふっかけられて、相手が負けた、けど」

そう言うと、志摩は考えるかのようにして頭を掻く。
やがて溜め息をつくと、俺の足をようやくゆっくりと下ろし、俺を立つように促した。

「,,,その怪我、ちゃんと若先生に診てもらうんやで?」

「お、おう!」

志摩が、なんだかんだいって燐くんには甘いなあ、と言いながら、俺の前に屈む。
おんぶしてくれるようだ。正直足が痛かったので助かる。
旧男子寮の道には、人気はないので、誰かに見られる心配はないだろう。
この様子だと、仕返しすることもない。
志摩の背中におぶさり、揺られながら、飲み物だけでもご馳走しようと考えながら。













「ほな、ごちそうさま。俺帰りますわ」

燐くんと兄を手当てしている若先生に話しかけながら席を立つ。

「おー、送ってくれてありがとな!」

見送りできなくてごめん、と苦笑いする燐くんに、美味しいお茶ご馳走してもらったからいいで、と挨拶を交し、外へ出る。
外は既に暗く、寒い。
しかしすぐに携帯をとりだし、とある番号に電話をする。

「、あ、若先生ですか?手当て終わったん?え?結構酷かった?へー...一歩間違ったら骨折だったかも、なあ。
若先生、ちょっとええですか。若先生から許しを得たら燐くんも納得してくれるかと思いましてん、
はい、田村いうやつらしいで。......おん、おおきに」

例を最後に、通話ボタンを切る。
痛い目どころじゃすまさへん
静かに呟く。しかしこんなし静かな場所だと異様に大きく聞こえた。

「燐くんを傷付けた阿呆を放っておくわけあらへんやんか」

こう言ったときの俺の表情を、悪魔が見たらきっと逃げ出すだろう。
姿は闇に包まれていった。




悪魔みたいなだわ!






あれ?燐ちゃん悪魔だから怪我直るの早いよね?
っていうのを書き終わったあと気付きました。
志摩燐はジャスティス!!




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