恋の歌を詠みませう。
□_月夜
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■撫子
さて、平安時代からタイムスリップしてきた貴族、「藤原俊平」通称「とっしー」も、だいぶ現代日本に慣れてきたようだ。とは言っても、やはりまだ文化の違いもあり、様々な物事に対して驚きの表情を浮かべる。
最近では算用数字も扱えるようになった。こう報告していると、子供の成長記録に思えてしまうから可笑しい。私より年上なのに。
俊平がやってきて数週間が経つ頃。彼は夕食中にこう言い出した。
「この日本には……もう私の憧れていた大和撫子がいらっしゃらないのでしょうか」
何を言い出すかコイツは。全くもって意味不明。開いた口が塞がらない私は、動揺して箸で摘まんでいた煮豆をころっと落とす。
「あらまあ俊平さん、何を仰るのかしら?」と母が笑う。
「たおやかで、美しく、知識に富んだ方は、この日本にはもういないのですか? 私がお会いした女人は、とても乱暴で、言葉遣いも悪うございました」
それは私のことだろ、それは。変なことを両親に話さなきゃいいんだけど……あいつ、口が滑りそうだ。