MAGIC
□変則事項
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「どうしたんだい?」
深刻な面持ちで沈黙しているなまえは、隣で俯き膝の上で拳を握っている。
先ほどからずっと動かない。
(珍しいこともあるものだ)
しばらくはそのまま放っておいてみたものの……
余りにも動かないので、リドルはついに声をかけた。
……ここまでくると、珍しいどころか、不安になる。
「私さ、考えたんだよね。」
「何を?」
「ホグワーツを真っ二つにする壁が出来たらどうしよう、って。」
「……」
こんなにも突拍子もないことを思うなまえは、珍しくも何ともない、いつも通りだ。
それにしても相変わらず変則的な発想だ。
リドルは嘲笑って見せようかとも思ったが、なまえが余りにも深刻な表情な為止すことにした。
「しかもね、その壁は何の予兆もなく、突然現れるんだ。その壁が現れたら最後。二度と向こう側に行けないし、壊すことも出来ない。」
「壁、ねぇ……」
リドルは無意識のうちに、それを想像してしまっていた。
「でね、それはここに……出来ちゃうの」
そう言ってなまえは、ス、と指さした。
つられてそこに目を向ける。
それは、ソファーに腰掛ける、二人の間だった。
「――最初は別にいいやって思ったんだ。ドアはぎりぎりこっち側にあるし、トイレにもご飯にも困らない。自室にも行けるし。」
「……それ、僕は限りなく不利だよね?」
僕はなまえの向こう側にいるのだろう?
リドルの不平は耳に入っていないのか、
なまえはただ「うん」と小さくうなずいた。
「だけどね、やっぱりダメだったんだ。」
僕は最初からダメだけどね。
リドルは心の内で呟き横目でなまえに視線を向けた。
「だってね、」
そこでいったん言葉を切り、きゅっと拳を握った。
それに気づいたリドルは、思わずなまえに顔を向けた。
「――リドルに会えないよ……」
なまえはリドルのローブを小さくつかみ、顔を上げた。
なまえの瞳は、まっすぐリドルに向けられ、視線が合う。
眉を下げ、どこか泣きそうな表情。
リドルの胸が、騒いだ。
――あぁ、まただ。
何故鼓動が早くなる?
何故、こんなに……
目をそらしてしまいたいのに、リドルは動けないでいた。
「――そしたら課題、終わんないもん」
「……は?」
何かが崩れる音がした。
リドルは呆けた顔になる。
「だってさ、あんなに多いんだよ?」
「……」
なまえが宙を睨み、口を尖らせながら言った。
ぴくりとリドルの眉が動く。
「そのくせ難しかったり、妙に捻ったりするし」
「……フッ」
リドルの口元が、不自然に歪んだ。
笑顔、にしては明るみが一切無い。
周囲を包むブリザードになまえは気づかない。
「教科書に載ってないものは出さないべきだよ!」
なまえが熱く拳を握る。
先ほどまでの落ち込み具合はどこへ行ったのやら。
途中までは良かった。
途中までは。
だが……
リドルはそっとローブに手を潜ませた。
指先に触れるのは、勿論、杖。
そこで不意になまえが立ち上がった。
思わずリドルの動きが止まる。
「あのね、リドル」
――静かな声だった。
呟いたなまえの表情は見えない。
そして数秒置いた後、
くるりと元気良く振り返った。
もう一度、目が合う。
「私、リドルがいないとダメみたい」
えへへ、と困ったようになまえが笑い、去って行った。
気の抜けるようなその笑みに、リドルが怯んだ。
リドルの胸が、また騒ぐ。
「……君は、とてつもないアホだからね。」
そう呟いたリドルの口元は、
ほんのりと弧を描いていた。
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誰しも人生に一度は
このような壁を想像したことが
ある、はず……!