白衣の帝王たんぺん

□11月11日
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11月11日

「先生!今日はポッキーの日です!!」

なまえは『ババーン!』と言う効果音と共に、ポッキーの箱を掲げながら保健室にやってきた。力強く。

なまえは上機嫌に(けれど扉は丁寧にそっと閉める。そして失礼しますの一言は忘れない)入ってくると、「私すっかり忘れてたんですけどねー」と言いながらリドルの目の前のソファーに腰を下ろした。それはもう上機嫌丸出しに、にこにこと笑いながら、ふわふわと花が飛んでいる。

「……今日は上機嫌だね」

チラリとなまえを見たリドルが、また本へと目を伏せながら言った。
楽しそうに保健室に入ってきたなまえに、ほんの少し口角を上げながら。

「なんにもいいことなんて、ないと思った1日だったんですよ。でもね、」

思わず笑みを漏らすなまえに耳を傾け、リドルはそっとページを捲る。

「今日はポッキーの日だったんです!」

……ん?

と一瞬リドルは動きを止めたが、再び何でもないように続きを待った。
一応本に視線を落としているが、実は同じ行を何度も読んだり、全く進んでいなかったりする。
午後の木漏れ日が、2人を明るく照らす。
11月の風は冷たいが、それでも日差しは優しく、暖かい。

「だから、ポッキー貰えたんです。箱ごと!よくわかんないけど、ご褒美らしいです」

箱を見つめへにゃりと笑ったなまえに、リドルは微かに眉を潜めた。
ゆっくりと、顔を上げる。

「貰ったって、誰に?」
「へ?クラスメイトですよ。あの黒い髪で背が高い―――」
「そう。」

リドルはなまえの言葉を切るように、一言そう言って、再び本に視線を落とした。
あえて深くは追及しなかったが、誰だかは想像がついている。
ページを捲る指に、少し力が入った。

「ポッキーはもちろん食べましたけど……でも、トッポは食べませんでした。やっぱり邪道なんですかね?」

その一言で、リドルは思い出したようにわずかに本から視線を上げた。そしてソファーの隣に置いてあった大きめの紙袋に手を伸ばし、探った。
そこに紙袋があったことなど、まるで気づいていなかったなまえは興味津々に視線をむけた。そしてハッ!と息をのんだ。そこには大量のポッキーの箱が入っていたからだ。
きっと生徒たちにもらったのだろう。中にはリボンがついているものや、メッセージカードがついているものもある。

「トッポって、これかい?」
「あ、それです!」

リドルは結構奥の方からそれを探し出すと、なまえに確認するように見せ、取り出した。なまえはその様子を見ながら、その圧倒的なトッポの数の少なさから、やっぱり邪道なのかと首を傾げた。

リドルはそんななまえを見た後、トントン、とこちらへ来るように自分の隣を叩いた。なまえは条件反射で立ち上がると、ちょん、とそこに腰を下ろす。
リドルは数秒間トッポの箱を見つめた後、箱を開け始め、一本取りだした。
そしてこちらを見上げたなまえを見る。
そしてそのトッポを―――

「……」
「?先生、食べないんでs―――ん、う……?」

なまえの口につっこんだ。

「な、何ふんれ―――」
「……」
「……へんへい?」

首を傾げるなまえを、リドルは無言でじっと見つめる。
なまえは疑問が戸惑いに変わりつつも、それでもじっと見つめ返した。
上目づかいで、じっとリドルを見つめるなまえ。次の言葉を待つように、命令を求める様に―――
リドルの心臓が、不規則な動きをした。


―――ぱくっ


不意にリドルがなまえの咥えているものの端を咥えた。
……顔が、近い。
目を細めるリドルに、なまえは頬を赤らめ思わず離しそうになったが、思いとどまった。
なまえは今日、ポッキーゲームというものを知った。
これはきっと、勝負を挑んでいるんだ……!

なまえはそう解釈すると、グッと眉を上げ、リドルを見上げた。
そして

「―――!」


ぱくりと大きく、食べ進めた。
ポッキーゲームを知らないリドルは、目を大きく見開いた。
熱い視線(※勝負に挑んでいるため)のなまえに、リドルが口角を歪め、目を細める

「……もしかして、誘ってる?」
「早く離さないと、私がたどり着いちゃいますよ?唇に」
「ふぅん……?」
「私、本気ですから」

なまえはそう残すと、ぱくりともう一口進めた。

「挑発的だね?」

リドルも、進める。

まさかの行動に、なまえは怯みそうになったが、それでも離さなかった。
というのも単純な理由で、リドルに負けるとなんだか罰ゲーム的な何かが怖いからだ。

なまえは己を奮い立たせるために、リドルを睨んだ。

「(ど……どうしよう、近い……!)」

けれどもそれは、逆効果でなまえは一気に闘争心が消沈していった。
代わりに浮上するのは、恥じらいと、後悔と、焦燥感。

「(どうしよう……)」

なまえは頭がグルグルと混乱し、ひたすら頬が赤くなっていった。
なまえはどうしてわからなくなって固く目を瞑った。

「(どうしようどうしようどうしよう……!!!)」

ぱくり、リドルはまた進む。

「(も、もうだめ……!!!)」

なまえは、大きく口を離し、リドルから逃れる様にソファーの肘掛けに身を投じた。
心音は荒く、まるでさっきまで溺れていたかのように大きく息をしていた。

リドルは突然の出来事に、
トッポを咥えたまま微かに目を見開いた。

「せ、先生強すぎ……!」

なまえが訴える様に呟いた言葉に、リドルが眉を潜めた。
咥えていた短いトッポを、口から外した。

「……強い?」
「もう最強レベルですよ」

ある程度落ち着いたなまえが、ソファーに沈むように腰掛けて深い深いため息を付いた。

「ポッキーゲームですよ」
「ポッキー、ゲーム……?」
「端と端を咥えて、先に離した人が負けるアレです。」
「……ああ、」

挑戦的で積極的なあの態度は、そのためだったのか。

僕はてっきり―――

そこまで言いかけた時、ふとある疑問が浮上した。

「……最後まで、離さなかったらどうなるんだ?」
「え?そりゃー最後は―――」

そこまで言って、なまえはぼんやりと宙を見上げた。きっと想像しているのだろう。そして案の定、みるみるうちに赤くなる。

「キ、キキキキキ」
「キス?」

なまえは目を見開いて、これ以上ない程に顔を赤くした。
からかうように、リドルは目を細める

「知ってて、勝負したんだ?」
「ち、ちが―――!」
「ところで、この勝負の勝者は僕で、敗者は君だね?」
「え、あ―――」
「敗者に待っているもの。何だと思う?」
「―――え、」

あたふたと慌てるなまえの後頭部を掴み、胸に押し付ける様に耳元に口を近づけた。

「―――罰ゲーム、さ。」

なまえの目が見開く。絶句したその表情は絶望に似ている。
リドルが、なまえの髪をそっと撫でた。

「僕は、甘いものが苦手だ。」

なまえは眉を寄せながら落ち着かない様子で、何が言いたいのかと言葉を待つ。

「けれども、さっきの残りがまだある。―――意味、分かるね?」

リドルが、そっとなまえを離す。
なまえの目には、短くなったトッポ咥えては、首を傾げ見下すようになまえを見、口角を歪めているリドルの姿。

それは、

つまり、

その、残りを――

なまえが強く、息をのんだ。

(絶対命令、罰ゲーム。)

なまえが片膝をソファーに乗せ、リドルの口の高さへと合わせる。
リドルの両肩を掴む手に、思わず力を込める。

(私は敗北者で、)

なまえは潤む瞳で、リドルの薄く、形のいい唇を見た。
まるで紅を引いたかのような朱色が、どこか艶かしい。

(先生は勝者。だから―――)

ゆっくりと顔を近づけながら、目を固く閉じる。
そして微かに口を開け、先端に近づけていく。

(だから、従うのが、道理――)










「――で、も、無理で、す」

なまえはそれだけ呟くと、ヘナヘナと情けなく項垂れて行った。
リドルが目を向けると、そこには耳を真っ赤にしているなまえが居た。
肩に乗せたままの手は震えていて、頭から湯気が出ている。



「―――ま、そうなると思ってたよ」



リドルはわざとらしくため息を付いた。


「意気地なし」
「うぅ……」
「―――なんてね。」


リドルはフと笑って、なまえを再び抱き寄せた。
そして優しく包み込み、トントン、と背中を叩く。


「(あれ?何か、優し、い……?)」


なまえはその仕草に、淡い期待を抱く。
もしかすると、罰ゲームは帳消しに……?







「ま、その代り今週の土日は僕につき従いしっかりと働くこと」
「……ゑ?」
「外出なんて許さないから。」






(ま、今回はこれで良しとするか。……珍しい姿も見れたしね。)



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11/20 oh...


                

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