頂き物

□看病
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関ヶ原での戦いの後から、雪奈はそれまで離れてい た分を埋めるように寝る間も惜しんで八瀬姫の看病 を続けていた。

そのせいもあるのだろう。無理がたたり雪奈が熱を 出して臥せってしまった。

(…無理をするなとあれほど言ったのに…。)

千耶は雪奈が眠る傍らに座り、眠る雪奈から片時も 離れようとしなかった。

雪奈は浅く呼吸をし、時折苦しそうに顔をしかめる 。

そんな事にはならないだろうが、このまま目を覚ま さなかったら…という恐怖が千耶に付いて回る。

(…看病とはこれ程までに消耗するものだったのか …。)

何もしてやれない無力感が千耶を苛んでいた。

(代われるものなら今すぐにでも代わってやるのだ が…。)

千耶は雪奈の額にそっと手を当てる。熱い…。 まだ熱が引く様子はなさそうだが、そうするとさっ きまで苦しそうだった雪奈の顔が幾分和らいだよう に感じた。 その様子に千耶の表情が僅かに緩む。

(自分の手が冷たい事を感謝する日がくるとはな… 。)

思えば、こうやって自分が誰かの看病をした事など 今までなかった。

雪奈にも今まで何度、こんな心配をさせてしまった のだろう…。

(雪奈もこんな気持ちだったのだろうか…。)

戦の最中で怪我をした時に甲斐甲斐しく世話を焼い てくれた雪奈の姿が頭をよぎる。

己を省みようとしない俺を、雪奈は心配そうにしな がらもずっと支えてくれていた…。

あの頃はそれが煩わしく感じた事さえあったが、今 になって思えば、雪奈が居たからこそあの苦境を乗 り越えられ、今自分はここにいられるのだ…。 雪奈には感謝してもしきれない。

千耶が雪奈の額に手を当てたままそんな事を考えて いると、雪奈が薄く目を開けた。

「……か、…ずや…。」

少し苦しそうな呼吸の合間に名を呼ばれ、雪奈の口 のそばに耳を寄せながら尋ねる。

「どうした、雪奈?」

雪奈は、熱に浮かされたような弱々しい小さな声で 答える。

「…千耶が倒れてしまいます。無、理しないで下さ い…。」

…こんな時まで俺の心配が先なのか。 その事に驚きと愛しさが込み上げる。

「雪奈…。」

俺は大丈夫だ、と言いかけようとしたが、雪奈は再 び眠りに落ちていた。

「お前はいつも他人の事ばかりだな…。」

千耶はそう呟き、雪奈を起こさないようにそっと隣 に寝転ぶと、優しく雪奈を引き寄せ抱きしめる。

雪奈の体は熱のせいで熱い。 これほど熱を出して、平気なものなのだろうかと心 配になる。

(明日の朝までに熱が引いてくれれば良いのだが… 。)

雪奈は千耶の体温が心地良いのか、眠りながらも無 意識に千耶にすり寄る。

そんな雪奈に小さく囁く。

「雪奈、早く良くなってくれ。でないと俺は、心配 でおかしくなってしまいそうだ…。」

雪奈の熱が少しでも自分に移るようにと願いながら 、千耶は目を閉じ、眠りについた。

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