【 Goku × Chichi 】Short ss

□今更では遅すぎた
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誰よりも…


大切で傍にいてほしくて

大好きで…。



だからオラがいなくても笑って生きてほしい。

そう心から願っていたのに…。




いつからだろう……。

下界で笑うチチを思うたび、独り占めしたい。
もう一度あの笑顔を自分に向けてほしい。


そう願い始めたのは。。。






【今更では遅すぎた。】


ここは大界王星。

あの世をも含めた中で戦闘に身を置くものや
界王たちが住む場所でもあった。



そして一人の男。

孫悟空も戦闘に身をおく一人の戦士として毎日厳しい修行に明け暮れていた。




その男は誰よりも強く優しい心を持ち、戦闘好きの男。

そのため厳しい修行も難なくこなしている。


今もそうだ…。



1つ3dといった錘を手首と足首。

合計で12dにも上る錘をつけて宙で拳を繰り出している。



そこへ北の界王が悟空のもとへと歩み寄ってきて。





「お〜い、悟空ぅ〜。そろそろ休憩したらどうじゃ?修行始めてからもう28時間にもなるぞ」




北の界王は悟空の体調を心配しつつ声をかける


すると悟空は拳を止めて、息をあげながら地上へ降り立つ。

そして一息つくと。




「もうそんなに経ったんかぁ!いやぁ〜、オラ全然気がつかなかったぞ」


「そりゃ当たり前だ、死人は時間が止まっておるのじゃぞ?わかるはずもなかろう」


「そっかぁ。そうだよな」




悟空は小さな笑い声を立てる。


北の界王は呆れたため息をつくと気を取り直して言葉を続ける。




「悟空よ。どうじゃ?下界の様子は見んのか?ずっと見てないだろ」




その言葉に悟空はぴたりっ、と笑い声をとめる


だが、変な空気にしたくないため小さく微笑み。




「あぁ、それならいいんだ。あいつらならやっていけるしな。オラが見守ってなくても平気だ」


「……そうか、なら別にいいんじゃが…。」


「それとさ、もうほんの少しだけ修行してぇからさ、界王様は戻っていいぞ。」


「そうか。だが無理のし過ぎはよくないぞ。」


「おぅ、わかってるって。」




悟空は微笑みながらいう。

界王は錘に目をやると…。




「悟空よ。まだ錘をつけて修行続ける気なのか?」


「えっ?。あぁ、これはもういいや。取ってくれよ」




悟空は界王の方に手を差し出す。


すると北の界王は手の平からその錘消え去るかのように取り除く。

まるで、今までの錘は幻だったかのように消えた。



悟空は軽くなった腕を動かして。




「へへっ、やっぱり錘はずすと軽ぃなぁ。」



そういって悟空は宙返り。

界王はため息をついて、無理するんじゃないぞ。
などと一言残してその場を後にしていった。




悟空は小さくなっていく界王の背中を見送ると一息。

そして芝生へと体を預けて空を見上げる。



再び小さな息をついて。

ポツリっ、と小さな声でつぶやく。




「会いてぇなぁ…」




その声はまるで心の叫び。

だけど誰にも言えぬ、そしてかなうこともない願いだった。




―オラ下界の様子なんて見たら

帰りたくなっちまうしなぁ。



けど帰ったってオラの居場所なんてどこにもねぇんだろうなぁ。



そう、。

もうどこにも。





悟空は心の奥深くに悲しみを感じた。

例えようのないくらいの痛み、苦しみ、切なさ。


その感情はとてつもない位に大きすぎた。




ふと。

悟空は自分の目元を手で覆う。


――涙がこぼれそうになってしまったから。





けれど。

悟空の悲しみはチチ以外に他ならなかった。



もう、あの笑顔は自分の物じゃない。

自分から手放してしまった。


誰よりも愛しくて大切だったあのチチを。



そのチチも下界では自分がいなくても笑っている

生きている。



チチは自分がいなくても笑っていた。






それはうれしいはずなのに。

望んでいたことなのに。


今ではそれが悲しみと切なさでしかない。




悟空はあふれそうになる涙を抑えて
強く目元を拭く。



「よし!後一がんばりだ!」



悟空は心に渦巻く悲しみを振り払うかのように気合を入れる。


だが、それは封印されただけで
一生消えることはなかった。

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