NOVEL

□なんつーか、その、
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それは
遅刻や悪戯、何時も通りの日常を過ごしたある日の午後だった

午後最初の授業は土方先生の古典
俺達にとってはサボリ癖どころではなく、古典の授業にでる気は全くと言っていい程ない

そのため昼休みに白熱しだした口論は躊躇う事なくそのまま延長されていた









「お前なんかに俺の気持ちはわからねぇっ!!!」


「平助だって僕の気持ちなんて絶対わかんないもんッ」



学校の屋上、季節がら気温も調度よく、雲ひとつ見当たらない真っ青な空から柔らかい日差しが満ちていた
そんな穏やかな領域には不釣り合いな、威勢だけはいい怒鳴り声が飛び交っていた


「だーかーらーっ!!!僕の方が絶対に平助のこと好きだってばぁ!!!」

「ふざけんなって!!!俺の方が好きなの!!!」


「僕の方が好きっ」

「俺だっ!!」

「僕ッ」「俺ッ」‥‥‥‥(以下略)


不毛な言い合いが続き、埒があかない現状に終止符をつけたくとも引き下がれないのは最早意地に近かった

こんなことにどう意地を張るのだと言われればそれまでなのだが、俺にとっては重大なことだ

何しろ俺自身が自負しているのこの "想い" に勝る強者がいるとまくしたてるのだから


「この地球上の何処にだって俺以上にお前を想ってる奴なんてぜってーいねぇ!!!」

「………ぷっ」
瞬きを繰り返し大きな翡翠の瞳を見開いた総司は、目尻を下げていきなり吹き出した

少し頬を赤く染めながらクスクスと肩を揺らす総司はこの上なく可愛いのだが
途端に恥ずかしくなる
きっと今の俺の顔は尋常じゃない程に真っ赤に違いない





「なんつーか、その‥」

思わず俯いたまま俺は呟くように言った
少し投げやりな言い方にはなってしまったが俺は素直に最近密かに頭を占めいていたことを総司に告げた



… スキ だけじゃ何か足りない

そう言った俺に総司は静かに視線を寄越した

それ以上は何も言わなかったけれど、総司も何か思うところがあったのか静かに息を吐いて俺を見つめていた



普段抱えて持ちきれない程の総司への想いは膨らむ一方で‥

手に余る程あるそんな感情を『スキ』だけでなんて
きっとそんなの人差し指と親指で摘む位にしか過ぎない気がした
伝え切れないもどかしさと焦がす想いに押しつぶされそうになる時があるのだ―――



小さな沈黙は決して息苦しいものではなかった
相変わらず俺の顔を覆う熱は治まらないようだが、ゆっくり視線を上げると総司の眩しい横顔が飛び込んできた
またドキリとして鼓動が煩い‥
当人は気にしたふうもなく、両手で上体を支えるように後ろに手をついたまま、青く澄んだ蒼空を見上げていた
俺はそんな総司に見惚れてしまう

気付いた時には彼は少し紅潮した顔を背けるように俯かせていた

「あ…総司?ごめんつい‥あんまりにもお前が綺れ」
「あ、あいしてるッ?」
言い終えないうちに総司が被せた言葉はどこか馴れなくてあどけなさを感じさせた



総司は睨むように見つめるがちっとも迫力はなかった

だって顔は真っ赤だし、そのせいか目も潤んで見えたから
怒っているというより必死に羞恥に耐えているのはバレバレだった

その羞恥は
俺の言おうとしたことからきたものなのか、
それとも
俺の告げたことに精一杯の言葉を探してくれたことによるものなのか

どちらにせよ‥
凄く嬉しくて、胸がキュッとなった
"愛してる"なんて言葉、使ったことは勿論、言われたことだって一度もない

きっと総司なりに精一杯考えて、
少しでも気持ちが伝わるようにって頑張ってくれたんだと思う


俺はさっきまでの自分を棚にあげ、余裕たっぷりに総司の赤い頬に掌を添えた
「俺も、愛してる‥総司」

尚も探るような目を向ける総司にクスリと笑いながら抱き寄せると火照った顔を隠すようにして擦り寄ってきた

少しの間じっとそのままでいると
総司が蚊の鳴くような小さな声で俺を呼んだ

「‥平助の気持ち‥ちゃんと……伝わってるよ?…」―――――


「ああ、知ってる」
微かに聞こえた声に頷いてやれば、総司は耳まで赤くした





―――愛してる
今はこれが一番ぴったりかな

でも本当は、たった四文字じゃ俺の気持ちは表せない
それ程に総司が好きで好きでしょうがないんだ……
まぁでも‥これから長い時をゆっくり過ごしていく中で徐々に伝えていければいい

焦らずに、ゆっくり―――



腕の中に収まっている亜麻色の髪に緩く指を絡めて静かにキスを落とした



【執筆者コメント】
平沖の真剣なバカップルを目指しました!!
まだまだ初々しさの残る、ほんわかムードに徐々に成長しつつある2人の心情‥とかまぁそんなカッコ良くもなかったですが◇笑

素敵な企画に参加できて感激です。主催者様に感謝を。
そして、それにあたり浅はかな私は色々とお手間を取らせてしまいすいませんでしたm(_ _)m
重ねて感謝を、
有り難う御座いました!!


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