NOVEL

□鈍感って、罪だよな……
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むぎゅ〜



職員室にて、今日もそんな音がする。
いや、しそうなくらい、新八は千鶴に密着する。

「おい、そろそろ離してやれよ」

見兼ねた左之助は、隣の席で千鶴を抱き締める新八に声をかける。

新八はデスクの椅子に座ったまま、千鶴を抱き締めている。
千鶴は立ったままなので、新八の頭はちょうどちょうど千鶴のみぞおち部分に当たる。
そこで新八は頭を擦り寄せる。
ここのところ、新八はいつもそうである。
資料や教材運びを理由に職員室へ招き入れ、そのまま千鶴を傍に置く。
決して毎日こうしている訳ではない。
毎週水曜と金曜、数学の授業が四限目にある時だけ、こうして千鶴を連れてくる。
昼休みは昼時故に、職員室には人がほとんどいない。
なので左之助以外の者から咎められることはないのである。

「千鶴ちゃんが可愛いんだから仕方ねぇ!」

一方の千鶴はというと、嫌がる様子はなく、顔をニコニコさせながらおとなしくしている。
千鶴は新八の為なら、という役に立つ意識が高く、進んで言うことを聞いてしまう。
そんな千鶴を左之助は少し心配するが、自分にとっても千鶴が鈍感なのは都合の良いことなので黙っている。

「あ〜…癒される…癒されるよ千鶴ちゃん」

「永倉先生の髪の毛気持ちいいです」

あまりにも千鶴が警戒しないものだから、それをいいことに新八は千鶴の頬にまで顔を擦り寄せる。
もう少しで唇が触れてしまう、というところで我慢ならぬ左之助が立ち上がり、千鶴の腕を引いた。

「…っきゃ」

「あ、おい左之っ!」

「そんなに抱き心地がいいのか?千鶴は」

そう言うと、引き寄せた千鶴をそのまま自分の胸へ押しつけた。

ふわり と仄かなタバコの匂い。
新八より遥かに強い力で抱きすくめられ、男らしさを感じた。

「おい!千鶴ちゃん返せよ!」

新八が言えば左之助の腕は一層強まる。

「はら…だ、せんせい…」

「ん?痛かったか?千鶴」

計算していたかのように、左之助は腕の力を緩め、千鶴の頭を優しく撫でる。
幾度かそうしているうちに、千鶴は次第にうっとりした表情になっていく。

(誘ってんのか…この顔)

「どうした?気持ち良くて眠くなっちまったか?」

クスクスと左之助は笑いながら千鶴の背中を擦るが、千鶴はハッと我に返り急いで口を開いた。

「あ、あの、えと…原田先生も…ぎゅってしてほしいんですか…?」

原田は目をぱちぱち、とさせた後、顔を真っ赤にして口元を押さえた。
もちろん自分の理性を抑える為に。

「せ、先生…?」

(くそ…可愛い、可愛すぎる)

「ほんと…鈍感だな千鶴は…」

一度ぎゅっと強く抱き締めた後、千鶴をくるっと回れ右させ、ポンと背中を押した。

「抑えらんねぇから返す…」

「なっ…俺の千鶴で発情すんな!」

「誰がお前のだ…」

「???」

頭を抱える左之助と、怒る新八、千鶴は訳も分からず棒立ち。

(原田先生、ぎゅってして欲しかった訳じゃないのかな…?)

いえ、むしろしたかったんです。

ちょっと頭冷やしてくる、と左之助は職員室を出て行った。
残された新八は、再度千鶴に「おいで」と両手を差し伸べる。
千鶴は左之助の背中を見送った後、何の迷いもなく新八へ駆け寄った。

先程新八は左之助に「発情すんな」と言ったが、実は自分も発情していない訳でもない。
千鶴を抱き締める度に香る甘い香りに、何度耐えたことか。

そんなことを考えているうちに、新八は我慢の限界まで達していた。

抱き締めていた手を千鶴の両肩にまわし、ぐっと自分から離す。

「せんせい…?」

突然離された体と新八の真面目な顔に驚き、千鶴も硬直する。


















「お、俺、千鶴のことが好きなんだ」





勇気を振り絞って言った言葉。
新八は、まさか自分がこの年になって、こんな青臭いセリフを吐くとは思っていなかった。

返答までの時間が永遠に感じるとはこのことか、と新八は初めて身に染みて泣けてきた。








「私も、好きですよ」

案外、あっさりした答え方だった。


「え、え!?ほ、ほんと…か?」

新八が喜びと驚きに満ちた顔で千鶴に確認すれば、千鶴はにっこりと明るい顔で返す。

「はい、永倉先生も原田先生も、土方先生もみんなみんな、大好きです!」


「…………え?」












鈍感って、罪だよな……





しかし新八は諦めまいと、神に誓ったとかなんとか。






【執筆者コメント】
Webアンソロ初参加です!
恐れ多くてもう…な感じですが
楽しく書かせて頂きました。
の割にはただ3人が
ぎゅっぎゅしてるだけの文で
すみません…(笑)
お粗末さまでしたm(__)m

そして主催のぺこさん、素敵な企画をありがとうございます!





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