NOVEL
□辛い時は俺に言えよな
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「千鶴、なんか今日顔色悪くねぇ?」
「え…?そうかな?」
「そうだって!無理しないで保健室に…」
「大丈夫!無理してないから…心配しないで?」
「千鶴…」
ふわっと微笑み、移動授業の用意をして教室をあとにする千鶴。
…お前はいつもそうだ。
誰にも心配かけたくなくて、いつだって無理をする。
「…千鶴、」
俺はそんなお前がほっておけないだけなのに。
≪辛い時は俺に言えよな≫
雪村千鶴は、俺の幼なじみだ。
家も近くて、小さい頃からいつも一緒だった。
家族みたいに大切な千鶴のことが、凄く好きだった。
いつだって近くで見てたから、
最近、千鶴の様子が可笑しいのにもすぐに気が付いた。
……それに、俺はもう気付いてた。
千鶴の様子が可笑しい原因に。
─────……
─────……
「千鶴ー!一緒に帰ろうぜ!!」
「平助君…うん。すぐに用意するね!」
ニコッと笑っているが、どこかに違和感がある。
俺は、いつものように話かけながら、今日こそは千鶴に聞くつもりでいた。
(……どうして、我慢するのかを…)
────……
────…………
「平助君。送ってくれてありがとう!」
「当たり前だろ?隣なんだしさ!」
「ふふ!そうだね」
じゃあ…っと行って千鶴が家に入った瞬間、
俺は素早くドアに手をかけ、強引に中に入ると玄関の鍵を閉めた。
「平…助君…?」
千鶴の瞳に不安の色が混ざる。
「…なんでだ?」
「え…?」
「なんでお前は一人で抱え込むんだよ…!!」
「平助く…きゃあ!?」
俺は俯き、目の前にいた千鶴をぐいっと抱き寄せ、キツく抱き締めた。
「…溜め込むなよ…」
「一人で何でも解決しようとするなよ…」
「俺がいるだろ?」
「もっと頼れよ、馬鹿…」
ぎゅうぎゅうと抱き締めながら言いたかった言葉を紡ぐと、千鶴がきゅっと俺の服を握った。
「…言っていいの…?」
「あぁ!言っていいよ。俺が全部受けとめるから…」
「…平助君、私ね…?私…淋しかった…」
ポツポツと話始めた千鶴の声はいつになく弱々しく、そして今にも消えてしまいそうだった。
「お父さんも薫もいなくて…いつもは賑やかだった家がやけに静かで…それが、淋しくて、怖かった…」
「千鶴…」
千鶴の親である鋼道さんと兄である薫は、この1ヶ月程前から京都を出て、東京に行ってしまった。
仕事だから仕方ない。
…まさか薫までついていくとは思ってなかったけど。
ただ一つ言えるのは、あの二人が此処を出ていってから千鶴の様子が可笑しいということ。
「…千鶴。千鶴は一人じゃねぇだろ?総司も一君も、千も、左之さんも新八っつぁんも…土方さんもいる。…それに、俺も」
「平助君…」
「もっと頼って、もっと甘えろよ?俺はずっと…ずっと傍にいるから」
いつの間にか涙を浮かべていた千鶴の目尻を親指で拭うと、俺は千鶴に向かって今出来る精一杯の笑顔で言った。
「辛い時は一人で悩んでないで、俺に言えって!そしたら、辛いことだって半分になるだろ?」
「平助君…ありがとう」
そういって千鶴は、花が咲いたように笑った。
─────……
─────………
次の日。
俺はまた遅刻寸前で目が覚めた。
「ヤバイ!!遅刻する…!」
バタバタと慌ただしく用意をすませると、急いで家を飛び出した。
「いってきます!」
ガチャ!っと勢いよく扉を開けると、そこには…
「…もう!遅いよ平助君!!遅刻しちゃうよ?」
ふわっと笑う千鶴がいた。
いつもと同じ朝。
でも一つ違うのは、千鶴の笑顔がいままでみたいにキラキラしていること。
俺は一瞬、目を瞬かせると、なんだかくすぐったくなって頭をかいた。
「なんだかなぁ…」
「?どうしたの?平助君」
「ん─?いや、さぁ?やっぱ俺、好きだなぁって思って」
「え…?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべる幼なじみの額をコツッとつつき、俺は思ったことをそのまま口にした。
「俺…千鶴の笑顔、好きだなって改めて思ったんだよ。お前は笑ってたほうがいいよ!そっちのほうがぜってー可愛いから!!」
「へ、平助君!?」
顔を真っ赤にする彼女も可愛いな、と思いながら俺は彼女の手を引き、走り出した。
「ほら!いくぞ?本当に遅刻しちまうから!」
キラキラ、キラキラ。
君の笑顔が見れるなら、俺はいつだって君の力になるから…。
END
【執筆者コメント】
うわわ!
初めてのNLで緊張します!!オリジナルは書いたことがあるんですけど、版権は書いたことがなくて……
ちゃんとお題にそって書けてるでしょうか…?
千鶴ちゃん好き過ぎて、思わず参加してしまいました!
読んで下さった皆様、ありがとうございました!!
東雲*゚