NOVEL
□イエスしか聞こえないな
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休み時間、教室移動で廊下を歩いていると視界のすみに向かいから歩いてくる千鶴ちゃんの姿をとらえた。
あ、こっちに気づいた。と思ったら次の瞬間、回れ右をして全力で走り去る彼女。
そんなふうに逃げられたら追いかけたくなっちゃうのに。
「ちーづるちゃーん!」
「おい総司!」
後ろで声を上げた一くんを無視してパタパタと走る千鶴ちゃんを追いかけて行けば一週間前、彼女に告白した屋上にやってきた。
「千鶴ちゃん?なんで逃げるのさ」
屋上の手すりを掴んでいる彼女にそう言えば、その肩がびくりと震えた。
「ここにきた、ってことは返事もらえるのかな」
「…はい」
ふり向いた彼女の瞳は揺らいでいて、おかしいな、けっこう自信あったのに。まあとりあえず聞いてみようか、と返事を促す。
「あの…ごめんなさい!」
がばっと勢いよく頭を下げる千鶴ちゃん。
「ねえ、理由は?」
「…えっと、あの…」
「僕じゃダメな理由、答えてよ」
そう問いつめれば千鶴ちゃんは大きな茶色の瞳を左右に揺らす。
「…その、理由はない、です…」
「そんなんじゃ納得できないな」
彼女の隣に立つと後ずさろうとしたので反射的にその細い腕を掴めば、千鶴ちゃんの顔が朱に染まった。
「ねえ、」
「その、…沖田先輩はかっこいいですから!」
「……は?」
僕の言葉を遮って叫ぶように言った千鶴ちゃんに目を瞬く。
「沖田先輩はかっこいいですから、私よりもっと先輩につり合う人がいると思って…!」
そう言った千鶴ちゃんを思わず抱きしめた。
「馬鹿だなぁ千鶴ちゃんは」
「あの…先輩?」
「つまりそれって、僕のこと好きってことでしょ?」
そう問えば顔を真っ赤にする千鶴ちゃん。わかりやすいなぁもう。
「僕はね、君がいいんだ」
「……」
「ほかの誰でもない千鶴ちゃんが好きなの」
だからそんなのは僕を拒んでいい理由にはならないよ。
「さて、じゃあ改めて返事を聞かせてくれるかな」
ただし返事は
イエスしか聞こえないな
「私、沖田先輩のこと…好きです!」
「うん、僕も千鶴ちゃんのことが大好きだよ」
【執筆者コメント】
けっこうベタな感じになってしまいましたが、このお題をみた瞬間に沖田さんが千鶴ちゃんに詰め寄る光景が浮かんだので、そのまま文章にしてみました。
素敵な企画に参加させていただいてありがとうございました。