NOVEL

□君の笑顔、好きだな
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あんな衝撃はもう二度と感じることができないと、思う。

高校の入学式。
女子生徒は私一人だと知ったのは、当日だった。
幼馴染の平助君は、入学式早々校則違反だと校門で捕まって。

何となく、教室にも行きづらくて、校庭にある桜の木の下で
満開の桜を見上げていた。

「教室がわからないのか?」

不意に声を掛けられた。振り返ると上級生らしい人。

えっと…

「何となく、行きづらくて」

「そうか、君が雪村君だな」

上級生にまで名字を知られている。やっぱり珍しいんだろうなぁ…。

何だかますます気分が滅入ってきて。せっかくの入学式なのにな…。
これでも一生懸命勉強して入った高校だから、楽しく通いたいのに…。

「どこか体調でも悪いのか?」

「え?」

「顔色があまり良くないな」

「緊張してあまり眠れなくて…」

そう、友達ができるかなとか、そんなことを考えていたんだけど。
それどころじゃない事実に打ちのめされて。

「何かあれば保健室に来るといい。俺は山崎だ。保健委員をしている」

「保健室…」

「女子一人では何かと不便もあると思うが…
できるだけ学校生活を送りやすいようにと考えている」

この人は、どうして見ず知らずの私に
そんなに親切にしてくれるんだろう。
そう思って顔をじっと見ていると、桜の花びらが山崎先輩に降りかかり、
鼻の上に一枚付いた。

それを眉間に皺を寄せて取る山崎先輩。

何だかそれが面白くて、つい笑ってしまった。

「雪村君、君はそうやって笑っている方がいい」

花びらを落として、山崎先輩は笑顔でそう言ってくれた。

「あ、ありがとうございます」


私も先輩の笑顔が好きですなんて、心の中で思うしかできないけれど。
山崎先輩の優しさは春みたいだな、なんて思いながら
桜の舞う中であなたを記憶に焼き付けた。



ほら、桜の季節が来ると、思い出す。
あれから一年経って、二年経って。
想いはどんどん大きくなって。それでも伝えられなくて…。
今日、山崎先輩はご卒業される。
持てる勇気を振り絞って、今からあなたに伝えます。

「山崎先輩、大好きですっ…」







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