NOVEL

□名前で、呼んでいい?
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あの日、僕は一目で君に恋に落ちた。


真新しい制服に身を包み、これから始まる高校生活に期待と不安で心を踊らし薄桜学園を目指して歩いていた時だ。
桜並木の下で同じ制服を来た男の子が、しゃがみ込んでいた。僕と同じように制服と鞄が新しくて同級生になる子かなぁと思う。調子でも悪いのかな。無視とか素通りとかするのは簡単だけど、同じ高校だし同級生みたいだから、僕は声を掛けた。


「ねぇ、体調悪いの?」


蒼い瞳が僕を見上げる。一瞬、女の子じゃないかと思ってしまうほど彼は綺麗だった。


「いや、体調が悪い訳ではない」
「にゃー」


立ち上がった彼の腕の中には一匹の子猫。彼の足元には小汚ないダンボール箱が倒れていた。


「その子、捨て猫?」
「ああ」
「どーするの?もうすぐ入学式始まるよ」
「それは解っているのだが、このまま此処に捨てて行くなど出来ぬ」


彼の細く長い指が子猫の頭を撫でる。子猫も気持ち良いのか瞳を細めていた。


「知り合いが薄桜学園の教師だから、子猫の事を頼んであげるよ」
「それは本当か?」
「うん」
「アンタは優しい人間なんだな。ありがとう」


女の子みたいだと思った綺麗な顔が、嬉しそうに綻ぶ。頭上に咲く桜みたいに美しいと思った。
僕の心臓が加速し頬に熱が集まるのを感じて。


「僕は沖田総司。君は?」
「斎藤一だ」
「君の事、名前で呼んでいい?」
「好きに呼んでくれ」
「僕のことも総司って呼んでよ」
「解った」


桜の匂いを乗せた春風が僕達の前髪を、フワリと揺らす。

僕は一目で君に恋に落ちた。

人生の桜が咲くのは、まだ先のこと。恋の花は蕾をつけたばかりだ。









*終*

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