「…要するに、兄さんは僕のことなんて全てお見通しってこと?」
さすがに少しむっとした。
愛する恋人に心から理解されているのは素直に嬉しい。でも、「例えば俺が純也に駆け落ちの話を持ちかけたとしたら、お前は100パーセントの確率でついてくる」なんて断言されてしまっては、なんだか一人の大人として軽んじられているような気がして良い気分はしないだろう。
すると兄さんは「そういうつもりで言ったんじゃない」と苦笑いして、カップからコーヒーを一口啜った。
「じゃあどういう意味なのさ」と口を軽く尖らせて、僕もマグカップに口をつける。
…甘い。
こちらのカップの中身はコーヒーではなく、ホットホワイトチョコレート。
バレンタインデーのチョコレートのお礼だと言って、兄さんが振る舞ってくれたものだ。
たぶんゆうかさんにでも作り方を教わったんだろう。それとも本で調べたのかな?
普段自炊の「じ」の字もない兄さんが苦戦しながら台所でチョコレートを溶かしている様子を思い出すと少し笑える。でも、今は笑ってやらない。
いかにも『すねてます』といった様子の僕を見て、兄さんは小さく溜め息を吐いた。
「別に、お前のことを軽んじているわけじゃないんだ」
「じゃあ、どうしてそんな知った風なことが言えるの」
「…逆もまた然り、だからな」
「ややこしいよ」となおもすねる僕の頭を、兄さんの拳が軽く小突いた。ちょっとだけ痛い。
「お前に『駆け落ちしたい』なんて言われたら俺は拒むことなんかできそうにない。だから、お前も…純也もそうであって欲しいと思ってな」
「半分は俺の願望だ」と軽く笑って、兄さんは再びカップに口をつけた。
「…ふん、そんなこと、あるわけないのに」
カップのふちを唇で食むようにしながら、僕はその白くて甘い中身をちみちみとすする。
少し大きい、この兄さんのマグカップが、しばらく僕の顔を隠してくれるように。
(でもきっとばればれ。向かいに座った彼は笑ってる)
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ホワイトデーな水純でした。
兄さんは純也に対してちょっといじわるだといい。
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