main
□たとえ話(水純、水明独白)
1ページ/1ページ
たとえば、父さんがごく普通の警察官だったとして。
たとえば、家族が常にともにあったとして。
たとえば、俺があの日の少年のまま育ったとして。
それが幸福であっただろうか。
こんな狭いベッドの中、隣に寄り添う彼の鼓動が肌で感じられる。
時折、寝息とともに吐き出される俺の名前。小学生の頃から今まで変わらない呼び名。
返事のかわりに、滑らかな額にそっとくちづける。大丈夫、俺はここにいる。
それが伝わったのかどうか。可愛い恋人は、むにゃむにゃと満足そうに微笑んだ。
ああ、なんて、愛しい。
たとえば、禁じられた一線を越えることがなかったとして。
たとえば、この葛藤と罪悪感を抱くこともなかったとして。
たとえば、俺と純也が出会わなかったとして。
それが幸福であっただろうか。
夜更けの部屋で、他でもない彼に気づかいつつ煙草をふかすこんな今この時よりも、果たして、幸福だったのであろうか。
口に出さない問いかけが、紫煙とともに吐き出されて、また、消えた。
(否、全てはこの時間への、必然)
************
久しぶりの兄さん。みじかいよぅ。