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□太陽と月がキスをした(羽風)
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−−いつもおひさまのまわりをぐるぐると回っていたお月さまは、いつしか、おひさまに恋をしてしまいました。

ぐるぐる回りながら、お月さまはおひさまに想いを打ち明けました。おひさまはびっくりしましたが、やがて照れくさそうに、こくり、とうなづいてくれました。お月さまは、とても幸せでした。

でも、お月さまはおひさまのまわりを回ることしかできません。ほんとうはもっと近くにいきたいのに。そんなお月さまは、ついにがまんできなくなって、ある日、ぐるぐる回る力にさからっておひさまにぐぐいっと近づきました−−



「……それから、どうなったんですか?」

ちらり、と遠慮がちな瞳が僕を見る。昼食時の話の種にと思って出した話題だったのだけれど、随分と興味を持ってくれたらしい。

以前あのセンパイに聞かされた話を思い出しながら、「そうですねー」と僕は続ける。

「お月さまは、おひさまにキスをしたんですよ。それで晴れて結ばれて、ハッピーエンドです」

「それでおしまいですか?」

「はい、そうですよ?」

何か腑に落ちないのだろうか、不満げに「うーん」と呟く先輩を見て僕は苦笑する。

…本当にこの人は、妙なところで聡いから困る。

この話をセンパイが僕にしてきた時点で、あの人が何を言いたいのかはだいたいわかっていた。人の淡い恋心まで自分の暇潰しに利用するんだから、本当に悪趣味だ。

「いつも近くで見守るしかなかった相手にやっと触れられたんです、お月さまにとっては最高の結末だと思いません?」

「言われてみれば、確かにそうかもしれませんね。…でも、どうしてその話はわざわざ太陽と月を主人公にしたんでしょうか」

自らの意思とは無関係に、
眩く輝き続ける太陽。
その光を受けなくては、
決して輝くことのできない月。
引き寄せられて、でも触れられなくて、永遠に回り続ける。

…この話に含まれた皮肉に気がつかないほど、僕も馬鹿じゃない。

「さーあ?」とわざと可愛らしく首を傾げて、僕は先輩を見る。

「でも、僕、お月さまの気持ちはなんとなーくわかるような気がします」

「どういうことですか?」

「こういうことです」

ぐっと近づく、一瞬。

驚きに見開かれた先輩の目が視界いっぱいに広がった。
机から身を乗り出したこの無理な姿勢は結構つらい。
でも、唇に感じる熱さにそんなことはどうだってよくなってしまう。

ちゅ、と音をたてて離れれば、目の前にはゆでだこのような顔をした先輩がいた。

「…っ!は、ははは羽黒さんっ?!」

「…やっぱり、熱いや」

僕は自分の唇をチロリと舐めてみせる。

「ごちそうさまですっ♪」

何か言いたそうに口をぱくぱくさせている先輩を知らないふりで、僕は残りの弁当をかきこんで片付けると席をたった。

「じゃあ僕、外回りいってくるんで」

「あ、羽黒さんっ」

「お疲れ様でーす」

ぱたん、と閉じた錆びた扉の向こうで先輩が何か言っている。その声に気を良くして、僕は薄暗い階段を登りながら、もう一度指で唇をなぞった。

「…やっぱり、熱いや」

呟いて、少し自嘲気味に笑った。

先輩、あなたのお察し通り、本当はこの話にはまだ続きがあったんですよ。
教えてあげるつもりは、ありませんけどね。

後でまた会った時、先輩はどんな顔をしているんだろう?

今は、ただそれが楽しみで、僕は改めて「よーし!」と午後の仕事に気合いを入れた。








『お月さまはおひさまに、キスをしました』

『でもおひさまのまとった炎は熱すぎてお月さまを溶かしてしまいます』

『それでも、お月さまはお日さまから決して離れようとしませんでした』

『やがてお月さまはすっかり溶かされてしまい、世界のどこからも消えてしまいましたとさ、めでたし、めでたし』


(あなたに消される?それもいい)

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キリ番555を踏んでくださった高野聖様に捧げます!
羽黒君を出すとどうしても道明寺がでしゃばる…。
この度はありがとうございました!


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