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□幕間劇(水明+人見)
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行きつけのバー、ムード音楽が心地好いカウンター…ここに来るのも久しだ、とカクテルのグラスを傾ける彼女−−式部人見は思った。
まして、隣でウイスキーをたしなむ旧友と共にとなれば、数年ぶりになるのではないか。

「霧崎君、前より笑顔が増えたんじゃない?」

何かいいことでもあったの?という問いには答えず、霧崎と呼ばれた男はただ静かに微笑んだ。…声に出さずともそれが立派な答えね、と女もくすりと笑う。

「そういうお前こそ、このところ丸くなったんじゃないか」

「そうかしら」

「そうとも」

彼女の表情が以前よりも柔らかく見えるようになったのは、常世島での一件以来だ。しかしここでそれを口に出すのも野暮に思えて、男は黙ってウイスキーのグラスを呷った。

芳醇な香りと程よい酔いが心地好い。薄灯りに照らされた女の横顔は学友の頃から変わらない芯の強さと微かに憂いを感じさせて、男は目を細めてそれを見つめた。

「…私の顔になにかついてる?」

「いや。綺麗になったな、と思って」

「そう、ありがとう」

お世辞ね、と女は笑う。
本心さ、と男も笑った。

こんなやりとりは、楽しかったあの頃から変わらない。

…たとえ時の流れが残酷な変化をもたらしても、今を見据えて生きていかなければならない。それはいつの時代も変わらない、残された者達の義務だ。

喪ったものの分まで幸せになる、義務。

「…人見」

「なに?」

「お前は今、幸せか?」

からかってるの?と睨んでみても男の眼は真剣そのもので、言葉に詰まってしまう。

そんな戸惑う女を見て、やがて男は少し表情を崩した。

「いや…今のは妙な質問だったな。忘れてくれ」

深い意味はないんだ、と未だ難しい顔をしている女の頭をぽんぽん、と軽く撫でる。

その仕草がかつての恋人のそれと似て思えて、女は少し火照った顔を俯けた。

そんな様子に気づかないような風に、男は便所に行く、と立ち上がる。
に相変わらず品がないのね、と俯いたまま女は毒づいた。

「しかし、俺もそろそろ身を固めないといけないな…」

去り際、わざとらしく独り言のように呟かれた言葉に、「誰とよ」と口の中で呟いて、女は小さく溜め息を吐く。

…柄にもなく紅潮した頬が、薄灯りで隠れて彼にばれていなければいい、と願いながら。







(人生は、一幕だけじゃ終わってくれない)

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123番を踏んでくださった藤麻睦樹様に捧げます!
しかしこんな中途半端なものですみません…っ


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