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□風邪っぴきラヴァー(水純)
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「…38度5分」
ぶっきらぼうに体温計を読み上げると、兄さんは毛布の中で「すまない」と小さく謝った。
珍しくお互いに休みがとれたから、次の日曜日久しぶりに二人で出かけないかと誘われたのは一昨日。
急遽調べたいことができたからと、土砂降りのなか無理を押して兄さんが出かけていったらしいのは昨日。
そして今朝、兄さんから一言『すまない』と電話があって、スーパーのレジ袋片手にマンションに駆けつけてきたらこの有り様だった。
久しぶりのデートだどうしよう、なんて楽しみで昨日眠れなかった僕が一人でバカみたいだ。
…思い出したら苛々してきた。
「………すまない」
そんな僕の様子を見てか、兄さんがまた控えめに言った。
小さく溜め息を吐いて、少しずれた毛布をかけ直す。
「もういいから、悪いと思うんなら早くその風邪治してよね」
明日からまた講義があるんでしょ?なんて言いながら立ち上がって、僕はキッチンに向かう。
風邪っぴきにはちゃんと栄養摂ってもらわないと。
普段自炊なんかしないであろう兄さんの家の冷蔵庫には案の定お酒くらいしか入っていなくて、改めてあらかじめ食材を用意してきてよかったと思う。
とりあえずお粥かなー、とレジ袋から米を探していると、ぼふっ、と後ろから抱き締められた。
見れば、毛布を肩からかけたままの兄さんがそこにいた。ピンク色の毛布にすっぽりとくるまった兄さんがなんだか可笑しい。
熱のせいか、毛布越しに伝わる兄さんの体温は普段よりも温かい。首筋に感じる吐息も熱くて、少しドキッとしてしまう。
「だめだよ兄さん、ちゃんと寝てなきゃ」
「…純也」
兄さんの腕に身体の向きを変えられて、目が合う。
熱を帯びた目は少し潤んで見えて、やけに色っぽい。
「…お前、怒ってるだろう」
「…そりゃあね」
「だから」
ちゅ、と口付けられる。
「機嫌、直してもらおうと思ってな」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と啄むように何度もキスをしてくる兄さんにもう怒る気も失せて、今はすっかりされるがまま。
兄さんの唇が触れた箇所から、じんわりと甘い痺れが全身に広がっていく。
……お粥、作れそうにないなあ。
「…っは、に、いさ…」
「…純也」
ひょい、と僕を抱き上げてベッドへ戻ろうとする兄さんに、もう何を言っても聞かないだろうなと抵抗も諦めた。
「…風邪うつったら、こんどは兄さんが僕を看病してよ?」
そっと囁いて耳たぶを甘噛み。その時目の前の兄さんの耳が赤く染まったのは、熱のせいだけじゃなかったとだろう。
(こんなデートも悪くないなと思ったのは、内緒)
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翌日、二人とも寝込んで人見さんに看病してもらったのは、また別のお話。