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□clear azure(道→風)
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そういえば、あれから恋、してないな。
暑さから逃れようと立ち寄った喫茶店でソーダ水を飲んでいて、ふとそう思った。
まだ7月の頭だというのに、憎たらしいくらいの晴天のせいもあってか、今日は猛暑と呼ぶにふさわしい気温だ。
そんな外の暑さが嘘のように、目の前のうっすらと青いソーダ水には窓からの光が射し込んで、氷とグラスの間できらきらと涼しげな光を放っている。
透明に、透明に。
それは、いつか惹かれたあの青年とどこか似て見えて。
柄にもなく、過去に思いを馳せてみる。
自分にもまだこんな人間らしいことができるんだなあと少しだけ驚く。グラスの底から小気味良くに浮かんでは消える気泡のように、思い出もきらきらと浮かんでは消えた。
「…あ、そっか」
自分はあれから、恋をできなかったわけじゃない。
きっと恋をしたくなかったのだ。
思いを告げないまま終わりを迎えた儚い恋。
脆く透き通った美しさを、あの人のいない世界の垢で汚したくなかったから。
「…会いたいなあ、センパイ」
あなたのいない世界なんてなんの面白味もないっす。
懐かしい言葉使いで呟いてみると、時を遡ったように感じて面白い。
でも会ってしまったらこんな感情は味わえない。だからこれは、嘘。
「…会いたいなあ」
もう一度呟いて、その甘酸っぱさを噛み締めてから、席を立つ。
さあて、またお仕事に行かなくちゃ。
…うん、やっぱり当分の間、俺は恋をしないだろう。
こんな心地良さを、そう簡単に手放してたまるものか。
手をかけた扉から洩れる熱気を浴びて振り返ると、結局半分以上残したソーダ水は、相変わらず小さく青く煌めいていた。
(実らずに終わった恋は、夏ごとに透き通る)
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純也他界後の道明寺。捏造気味です。
イメージ曲は「冷たい水の中を君と歩いていく」。リスペクト谷山浩子さん。