頂いた素敵な夢

□相互記念
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1、油断ならない相手




誰もが、夢にも見なかったことだろう。
サッカー女子の進展をさせ、初の女子世界大会進出と女子サッカーを世界に認めさせたあの伝説のイナズマジャパンの一人…
そんな有名な選手に会えるなんてこと。
男子の選手に会うのも難しいというのに、もっとすごい女子の選手に会うなんて10倍ぐらい難しい。
だというのに。
今、僕の目の前にいるのは何者だろう。


黎架「そんなに緊張しなくてもいいじゃないか。」
雪玻「いえ、そんな…」


緊張しないなら苦労しませんよ。
ともいえず笑顔を引きつらせる。
逆に彼女はにこにこと笑顔を崩さない。
白雪黎架――彼女こそがイナズマジャパンが誇るオールラウンドプレイヤーである。
昔とは違い、ライセンスを簡単にとれるようになったのも彼女のおかげだろう。


黎架「ねぇ――サッカーは、楽しいかい?」
雪玻「――はい。楽しいです。」
黎架「…そっ、かぁ…」


黎架さんは、僕にも聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
あの時、あの子も君のような純粋な好意を抱いていたら、少しは変わったのかもしれない、と。
ただ、悔やむように、気に病むように。
イナズマジャパンとして、世界二連覇を果たした後、彼女は全国のサッカーが好きな子供たちのために密かに自ら所持するのサッカースタジアムを提供した。
いつか、自分たちのような気持ちを抱いてくる人のため。


黎架「雷門は、強くなったね。」
雪玻「そうですね。」


そんな話をしていると、あーっ、といきなり黎架さんが叫び出す。
え、なに、どうしたの?
そう思っていると黎架さんはこちらを向いてニコッと笑いかけてきた。


黎架「しんみりするのは僕に合わないから、考えるの止めた!
ねぇ、雪玻。
サッカーやろうよ!!」
雪玻「はいっ!!」


広い河川敷で僕と黎架さんは2人でせめぎ合う。
端から見れば踊っているように見えるだろう。
僕らは楽しんでいたんだ、サッカーを!!


円堂「おーいっ!!」
黎架「おっ、いいところに!!いくよ守っ!!



DearSnow V3!!」


円堂監督の姿を視るやいなや、黎架さんは思いつきのように完全進化した必殺技を繰り出す。
そのボールは真っ直ぐ監督に向う。え、どうすんのこれ。
なんて思っていると円堂監督の向こう側に京介の姿が見えた。
余所見をしている間にも監督はボールを取る構えに入る。


円堂「まだまだっ!!


ゴッドハンドV!!」


輝く黄金の手、スッポリとおさまったボールと、間近で見ることが出来た伝説の技。
僕はドキドキした。
まるで、街で人気アイドルを見つけたような感覚で。


円堂「とびきりのサプライズだな、黎架!
またお前の技を受けるときが来るなんて思ってなかったぞ!!」
黎架「守にその気があれば、いつだって蹴ってみせるさ。」


ガヤガヤと、雰囲気が一気に明るくなる。
まるで魔法のように。
そこに、さも当然のように京介が来る。
円堂監督が、黎架さんに声を掛ける。
黎架さんは笑顔だが、固まっている。


雪玻「えと…2人は?」
円堂「師弟関係だ!」
雪玻「師弟関係…って、えぇぇっ!?」


驚くと、京介が呆れてため息をつく。
仕方ないじゃん、知らなかったんだもん。
京介はすぐに黎架さんに向き直る。
笑顔がみるみるうちになくなっていく。


剣城「必殺技を出していましたが、俺にはあれが本気には見えない。何故――」
黎架「何故?君はわかるだろう?





どうして、本気を出さなかったかなんて。」


キラリッと光る目に、僕は背筋が凍った。
元々中性的な顔立ちや目つきをしているので、自分が睨まれていないとわかっていても射抜かれているという感覚があった。
剣城はチッ、と舌打ちをして僕の手を引っ張る。
えっ、ちょっと…
そう思い黎架さんを振り返れば、ニコニコとした表情に戻った黎架さんがまたね、と手を振っていた。
一応返事として礼をした。
なにも気にすることなく進んでいく京介は、家の前まで来ると立ち止まり、僕の手を離した。


剣城「気をつけろ。」
雪玻「え?」
剣城「あの人は、油断できない。」


それだけ言って、家に入っていった。













(思えば黎架さんのあの笑顔は、)
(裏表がよくわからないものだった気がした。)















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