稲妻

□狡い
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鬼道が少し変だ。
というより、あきらかに様子が変だ。



理由は分かっている。
…影山の死だ。
円堂や鬼道、フィディオ達のおかげで
本当のサッカーの楽しさを思い出した影山に
不釣り合いな突然の死。
それが鬼道に影響しないわけがない。

(今日の練習が終わったら少し声をかけるか…)








鬼道になんて声をかけようか…。
なぐさめたほうがいいのか
励ますほうがいいのか…
いや、考えるのは後にしよう。
とにかく今は、鬼道の傍にいてやりたい気持ちのほうが大きい。
3回ほどノックして扉の向こうにいるはずの鬼道に声をかけた。


「鬼道…ちょっといいか?」


…返事がない。いないのか?


「入るぞ」
「まっ、待ってくれ!!!」


扉を少し開けたところで中から声がした。
これ以上扉が開かないように鬼道が反対から押さえているらしい。



「大丈夫か、鬼道?」
「あ、ああ…」



元気がない、声を聞けばすぐ分かった。

こんな俺でよければ鬼道の力になりたい。
鬼道が落ち込んでいる時に傍で支えてやりたい。
鬼道が俺を必要としてほしい…。
俺は鬼道が…。


そんな事を考えていたら思わず手が出た。


「っ…!!?豪炎寺?」


ドアの隙間から手に触れるだけ。
姿は見えないけど手から温もりを感じる。


「落ち込んでいる時は俺を頼ってくれ」
「は…?」
「俺は…お前の力になりたんだ」
「……」


静かな沈黙。
互いに扉越しで喋らずに
ただ、手でお互いの体温を感じるだけ。



「ありがとうな、豪炎寺…」
「ああ…」


君の力になりたい、傍にいたい
君が俺を必要としてほしい。
君が望む俺でありたい。
君が俺のモノになるのならば…


弱っている心にだって浸けいる。
ズルいと分かっていても…。

―君が欲しい。




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