深海の庭球

□兄弟 9
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「先に寝てんじゃねえよ。」

キングサイズのベッドで小さな寝息を立てる青年に軽くデコピンすれば煩わしかったのか。
ブランケットへ潜ってしまった。

「おい、起きろ。」

「…。」

「おい。」

「…。」

「有里、起きろって。」

「…ん。…あ、景吾?帰ってたんだ。」

「何先に寝てやがるんだ。アーン?」

「部活の帰り遅いんだから待ってられないよ。」

「お前も部活に入ればいいだろ。」

「やだ。授業後の貴重な時間は趣味に勤しむためにあるんだから。」

「またパズルかよ。」

「父さんの出張先でたまたま売ってたんだってさ。今日送られてきた。」

「相変わらず甘いな。」

「景吾にも変わらないでしょ。」

「お前は特に甘やかされてるだろ。自覚しろ。」

「そーかな。まぁありがたいよね。探してたやつだし。」

「先月言ってたあれか。」

ちらりと視線をアンティーク調の机へと動かせば、3分の1程埋められたパズルが見える。
世界の絶景シリーズのようだ。

「プレオブラジェンスカヤ聖堂だよ。」

「ロシアのキジ島の建物だな。」

「そうそう!じゃなくて…なんで起こしたの?俺に何か用?」

「いや。」

「は?」

「弟の俺様が帰ってきたんだ。起きるのは当然だろ。」

「はぁ?そんなことで起こすな!せっかく気持ちよく寝てたのに…。」

「フン。」

「ほんっとワガママ。…寝よ。」

「ふざけるな。」

「なんで。もう起きて話したんだから満足でしょ。」

「…ッチ。1個あるだろ。」

「1個?何だっけ?」

その言葉にやっと起き上がった有里は首を傾げている。
しばらくベッド脇で待っていた景吾だったが、しびれを切らしたようで、両腕を開いた。
その姿にあぁと納得した彼はのそのそとベッドから出ると腕の中にスッポリ収まれば、満足げな表情をして抱きしめる。

「…おせえよ。」

「景吾、おかえり。」

「…ただいま。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…そろそろ離してほしいな。」

「アーン?」

「眠い。」

「…ッチ。真ん中で寝るなよ。準備したら俺も寝る。」

「自分のベッドで寝たらいいのに。部屋に同じサイズのやつあるでしょ。」

「うるせえ。」

有里の言葉に不機嫌な表情になる景吾は抱きしめていた腕の力を強め、そっぽ向いてしまった。
その姿に余計なことを言ってしまったと後悔し、小さく溜め息を溢す。

「明日も早いでしょ。」

「…。」

「俺も明日早いんだよね。」

「…。」

「入学式の準備メンバーになったんだよ。ジャンケンで負けてさ…。」

「…。」

「だから久しぶりに一緒に登校とかどうかなって。」

「…早く言え。すぐ準備終わらせる。」

有里の言葉で動き出した彼はすでに荷物を粗方片しているところを見るとすぐに戻ってくるだろう。
その姿を横目にベッドへダイブすれば、スプリングがその勢いで上下に跳ね上がっている。
ブランケットを掴み、中へと入って目を閉じれば今にも眠ってしまいそうだ。
大きな欠伸を溢しながらも、寝入ってしまえばまた機嫌を損ねると面倒だとなんとか意識を保っていた。
準備を終えて戻ってきた景吾をブランケットへと迎えれれば、損ねていた機嫌は完全に治ったようで二人共すぐに深い眠りへと誘われるのだった。
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