深海の箱々
□ごくせん 2
1ページ/1ページ
白金学園の卒業生であり、東大法学部を首席で卒業した沢田慎という名の彼。
天下の黒田組の孫娘、山口久美子に惚れ込み恋人から夫という存在に登り詰めた努力家な男でもある。
若頭の京太郎によって手塩に掛けて育てられたお嬢と呼ばれる彼女は恋愛に疎く、元教え子という立場もあって苦労も多かったようだが、極道弁護士としてもキャリアを積み重ね信頼を勝ち取った上での結婚だ。
一人息子である瑞も授かり、順風満帆な日々を過ごしていた。
そんなある日。
いつも通り帰宅すると事務所が怒鳴り声が聞こえ、いつも以上に騒がしい。
「京さん、どうしたんですか?」
「慎の字!!瑞坊ちゃんがこんな時間まで帰ってきてねえんだよ!いつもなら15時くれえには帰ってるっつうのに。テツとミノルが探しに出てるが、一向に帰ってこやしねえ。」
「それは心配…。」
「…ただいま。」
「瑞坊ちゃん!?こんな時間まで何して…ってその怪我は…。」
ランドセルを背にしている瑞は慎とそっくりの顔立ちで、京太郎の質問に唇をぐっと噛むのが見えた。
小さなその身体中には殴られたであろう跡が所狭しに付けられている。
「誰にやられたんスカ!?俺が落し前つけて!」
「落し前は自分で付けたからいい。…でも、流石にも、むり…。」
その場に倒れ込んだ瑞を軽々と抱き上げた慎は京太郎に医者を頼むと奥の部屋へと入っていった。
ランドセルを外し、布団に寝かされた瑞の服を脱がせれば、腹部が真っ黒に染まり、執拗に狙われたのだとわかるほどだ。
京太郎の呼んだ医者によって手当されたとはいえ、暫くは絶対安静だとそう釘を刺された。
これほどの力は小学生では無理だろう。
高校生か高校生になる手前くらいの者にやられた可能性が高いとそうこぼしていたのは記憶に新しい。
まだ小学3年生の瑞が相手するには分が悪すぎる。
それでも落し前は付けたというのだから流石というべきか。
とはいえ、ここまで傷物にされて慎が黙っていられるはずもなく、報復を考えていた。
「慎!瑞が怪我したって!?」
「久美子、お帰り。しばらくは絶対安静だってさ。」
「そんなに酷いのか…?」
「相手は高校生みたいだからな。よく耐えたと思うぜ。」
「高校生!?それでこんなに痣が…。全く無茶しやがる。」
「顔は俺似なのに性格は丸っきり久美子だからなぁ。」
「アタシはここまで危険に首突っ込んだりしねえよ!」
「俺から見ればどんぐりの背比べだ。」
「なんだと!」
「騒がしくすると起きるぞ。」
そう久美子を窘めたが既に時遅しだったようで目を覚ました瑞が気だるげな表情のまま無理矢理身体を起こしている。
まだ痛みも残っているだろうが、表情には一切出ていない。
そこは慎によく似ている。