深海の喰種
□喰種 1
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喰種。
それは食性が人間のみに限定された肉食亜人種。
彼らが持つ特殊能力はRc細胞を放出することで現れ、能力を使用している間嚇眼と呼ばれている赤い目に変化する。
肩周りから放出される羽嚇はスピード重視で、肩甲骨より下から放出される。
甲嚇は随一の頑丈さを誇る。
鱗嚇は腰周りから放出され、触手のような柔軟性を持つが脆い。
その代り回復も早く打撃や刺突攻撃を行い、鱗のような表面で破壊力が増している。
尾嚇は尾てい骨辺りから放出される万能型嚇子で総合力が高く攻守ともに水準以上でスピードもあり特に弱点はないが、攻撃において決め手に欠ける事が欠点である。
そんな喰種は社会から駆逐対象とされているが、人間として暮らし人間を殺したことのない喰種もいて本当に駆逐対象であるのか実際は問題点が多い。
「カネキ。」
「なんですか?」
「今から来る黄泉って奴には気を付けろ。あいつは喰種の中でも異常だ。」
「どんな方…。」
「おっ邪魔しまーす!」
「あ、いらっしゃいませ。」
「あれあれ?新人さん?」
「僕、金木健と言います。」
「クンクン。ふーん、大喰いのリズを持った人為的ハイブリッドか。面白いね。」
「??」
「気にしないで!俺は楔、こっちが黄泉。よろしく。」
そう言ってにっこり笑う彼を見る限り危険そうな雰囲気は全く感じられない。
隣に居る背の高い方は全身真っ黒の布に覆われていて口元しか見えないがこれと言って人間と変わった所はなく、無言を貫いている。
「楔、黄泉。コーヒーどうだ?」
「飲むー。黄泉は?」
「…。」
「要らないって。ん?あーうん。」
「??」
「ちょっと狩って来るらしいけど許可出してくれる?」
「あんま派手なことするなよ。」
「最近目に余ってる喰種狙いだから大丈夫。腹減ってるし早めによろしく〜!」
「カネキ、お前も付いて行け。」
「え、僕もですか!?」
「一度同族狩りを見ておくのも勉強だ。」
「えーカネキが行くなら俺も行くーー!」
「楔は残れ。お前が動くと目立つ。」
「目立たないようにするから俺も行って良い?」
「仕方ないな。黄泉、楔の事を頼むぞ。」
「…。」
静かに頷いた黄泉は狩りをするべく楔とカネキを連れて目に余っているという喰種へと向かった。
しばらく走っていると食欲をそそる香りが充満する一角へと辿り着き、目の前には野獣のように人間を貪り食う喰種がいる。
あまりの惨さにカネキは言葉を失って視線を逸らすが、2人は特に何も想って居ないらしくただ見つめていた。
「…。」
「わかってるって。でもさっさとしないと腹ペコだから嚇眼発動しちゃうかも。」
「…。」
「黄泉、もうお腹空き過ぎておかしくなりそお。」
涎を舐めとると同時に尾てい骨から飛び出すRc細胞。
尾嚇が現れ、隻眼の喰種である彼の強さは異常で相手の喰種は一瞬にして肉片化し美味しそうに食べる姿にカネキは恐怖を覚えた。
「…。」
「しょーがないじゃん。喰種は食欲にだけはどうしても勝てないんだから。」
「…。」
「カネキも食べる?」
「い、いえ。僕は…。」
「何、俺のは食べれないの?そんなことないよね。」
いきなり近づいてきた楔は一瞬にして鱗嚇でカネキを捕えると、無理矢理食べさせる。
ゲホゲホと咳き込みながらも、もっと食べたいという欲求に駆られる自分自身に戸惑いを隠せないでいた。
「カネキはさあ、人間や喰種を食べる事に躊躇してるみたいだけど君らが食べてた豚や牛も同じだし実際人間にも殺人鬼は居るでしょ。その人が死刑になると俺達の食事になるのと何が違うわけ?」
「…。」
「まあいいや。黄泉あと食べていいよ。」
「…。」
「じゃ、お先。」
そう言って去っていく彼。
黄泉は特に何を言うわけでもなく、バッグに残った肉片を詰めあんていくへと戻って行く。
「おっかえりー!」
「楔さん。」
「どーした?」
「あの…。」
「さっきの事?俺そういうの気にしない主義だから大丈夫。」
「…。」
「楔、黄泉が怒ってますよ。」
「マスター、久しぶり。」
「ちゃんと食べないで嚇眼を発動させていると身体を壊すことになるって話しただろう。」
「俺頑丈だからそんなんじゃ身体壊れないもーん。」
そんな事を言いながら淹れたてのコーヒーを飲む彼。
褐色の良い肌により体調変化のわかりにくいが黄泉とマスターにはわかるようでぶーぶー言う楔を物ともせず奥の部屋へと連れて行く2人に周りは呆れ顔で、トーカに至っては無視を決め込んでいた。
「トーカさん。」
「なんだよ。」
「黄泉さんの口、動いているのに声が聞こえないので何がどうなってるのか僕には…。」
「こっちも聞こえねえよ。だから話してる事はさっぱりだけど、楔は戦いに関しては貪欲なのに食になるとまるで駄目だからあーやってマスターと黄泉に無理矢理食べさせられてるって話だ。」
「そこまでしないと食べられないんですか…。」
沈んだ声で言うカネキ。
しばらくするとぐったりとした黄泉とマスターがホールへと出てくる。
「楔さんは?」
「大量に食べたからぐっすりだよ。」
「あの、楔さんと黄泉さんはどういった…。」
「彼らは兄弟なんだ。」
「兄弟…?」
「そう。これでも楔君がお兄さんなんだよ。」
「あいつのがガキだろ。」
「トーカちゃんは厳しいね。でも君の事を一番理解してくれるのは楔君じゃないかな?」
「っち。」
「カネキ君、気になるって顔してるね。」
「彼らとの関係って…。」
「楔はあんていく従業員皆の命の恩人であり、20区のリーダーなんだよ。」
「え!?僕ちゃんと挨拶!!」
「大丈夫だよ。楔はたまに強引な所もあるけど、基本的には温厚で情の深い喰種だ。」
そんな出会いから早2週間。
ハイブリッドとしてどうしたら良いのか、そういった事を毎日考えながら過ごしていたカネキだったが、CCG通称白鳩の動きが活発化し人間に危害を加えていない喰種も対象として駆逐された。
それは彼らの身近であるヒナミの母リョーコもまた駆逐された1人である。
その出来事があってもなおマスターは白鳩に手を出さないと伝えたが、納得の行かないトーカは彼の言葉を無視しラビットのマスクを付け戦いを仕掛けた。
しかし、相手も手慣れた白鳩。
彼女1人では倒すことなど出来ず、腹部に大穴を開けられ意識を失いかけていた。
「爺さん、俺のに手を出すってことは死にたいんだよね。」
右目以外を全て白い面で覆った少年がゆっくりと歩いてくる。
それだけでも何故か恐怖を覚え、白鳩は全力で攻撃を仕掛けた。
しかしその攻撃は届くことなく少年の尾嚇によって肉片へと化していて、意識の無いトーカをおぶり泣いているヒナミの前へとしゃがみ込む。
「ヒナミちゃんかな?」
「…っ。」
「お母さんとお父さんが居なくて寂しいよね。」
「…っ。」
「俺もお母さんとお父さんが死んだ時悲しくて辛かったけど、寂しくは無かったよ。」
「なん…で?」
「俺には俺を大切に想ってくれる人がまだ居るから。ヒナミちゃんにも居るよね?トーカちゃんは君の事を心配してこんな大怪我してでも助けようとしてくれた。わかる?」
「っ。」
「今はたくさん泣いたらいいよ。でもお母さんとお父さんが居なくてもヒナミちゃんは1人じゃない。」
その言葉で大声で泣き出したヒナミ。
彼に抱きつきわんわんと泣いている姿に慈愛に満ちた喰種とは思えないほどの表情を見せ、泣き疲れた彼女も抱き上げあんていくへと戻って行った。
その頃もう1人の白鳩を足止めしていたカネキが力の暴走で相手を殺しそうな勢いで戦っていたが、どうしても殺す事が出来ず逃げろと叫ぶ。
しかし、相手も固い決意を持っているのか引く気は無いようだ。
それと同時にザクりと音がしたかと思うとカネキの鱗赫が一瞬にして消し飛び、その後ろに立つ左眼以外の全てを黒い面と黒布で覆った青年が羽嚇を使って彼を追い払うと倒れ込んだカネキを引きずってあんていくを目指すのだった。