深海の英雄
□兄妹 1
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緑谷出久には妹がいる。
そう噂になったのは、入学してから一ヶ月程経った頃だった。
「緑谷〜、お前に妹がいるって本当かよ?」
「え!?何でそんな話になってるの!?」
「クラス中の噂だぜ〜。」
「そういや、爆豪と緑谷は幼馴染なんだろ?何か知らないのかよ。」
「あ゛?」
「だーかーらー緑谷に妹が居るかどうかだって。」
「ッチ。…知るかンなもん。」
妹という話題が出た途端に怒りより拗ねているという表現がぴったりな程不機嫌な顔をした爆豪は寮に戻るべく歩き始める。
そんな彼を遮ったのは特徴的な深緑色の髪を左に流して三つ編みにした少女で優しそうな雰囲気を纏っていた。
「おい、勝己。出久どこだ?」
厳つい声に一瞬誰が出したのだと視線を彷徨わせるが彼女以外口を開いていない。
「ゆめ!?どうしてここに?」
「母さんが心配だから行けって強制的にな。んっと面倒くせえ。」
「み、緑谷?誰だ、それ。」
「あぁ、さっき噂になってた僕の妹!可愛いでしょう?」
自慢気に満面の笑みで言う出久だが、爆豪よりも余程怖い表情をしている。
それに見た目と裏腹な声に話し方は兄である彼の弱々しさからは想像できない。
「で?誰に虐められてるんだ?」
ニヤリと笑みを浮かべた彼女は周りに黒い球体をいくつも作ると標的を探してゆらゆらと漂っている。
「ちょ、ちょっとゆめ!母さんから何を聞いたの!?誰にも虐められたりしてないから!」
「なら、勝己。的になれよ。」
目の前にいる爆豪にそう言いながら指を向ければ、一斉に彼へと向かっていった。
危ない!と皆声が出そうになったが、いきなりゆめに爆豪が抱き着いたことで声にならないまま口を開いている。
「ゆめ、悪かった。」
「悪かった?上から目線で余計腹立つ。」