深海の忍術
□兄弟 2
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奈良シカマルには兄がいる。
そう噂になったのはアカデミーを卒業してすぐのことだった。
今しがた猫探しの任務を終えたイノ、シカマル、チョウジの3人は疲れきった表情で帰路を歩いている。
「シカマル。」
そんなとき聞こえてきた透き通るような優しい声にキョロキョロと視線をさ迷わせ、声の主を探す3人だったが人影はない。
「今のって空耳かなぁ?」
「そんなわけないでしょ!!3人同時に聞こえる空耳なんてありえないわよ。」
「イノちゃんの言うとおり。任務お疲れ様。」
「き、きゃあああああああああああ!!」
いきなり大声で叫んだイノの視線の先には彼女の影があり、そこからにょきっと生えてきた生首。
ニコニコと笑みを浮かべているが、彼の目は真っ黒に染まりその様相は化け物である。
飛び上がって逃げる彼女だったが、彼女の影から出てきているだけあって一緒についてきてしまうため埒があかない。
その状況に涙目になりつつあるイノを見かねて大きなため息を溢したシカマル。
「あほ兄貴、それぐらいにしてやれよ。」
「え!?兄貴ってこの生首がアンタのお兄さんなの!?」
木に登って難を逃れていたイノはそこから飛び降りそうな勢いで問いかけてきた。
それと同時にシカマルの隣で普段通りポテチを食べていたチョウジに違和感を感じキッと睨めば、やっと気付いたのか。
困った表情を見せる。
「チョウジ、アンタなんで全然驚いてないのよ!」
「ボクはシカマルのお兄さんに会ったことあるから。」
「うん。何度か会ってるよね。」
そんなことを言いながら影から出てきたのは渦のような目をした黒髪の青年でその目は人間のものとは思えない。
「…あんたのお兄さん…ニンゲンなのよね?」
「あー、まあ人間か人間じゃないかつーと人間じゃねーんじゃねえの?」
「は?」
「俺は母さんの影から生まれたから人間じゃないよ。」
「影からってどういうことよ。」
「そのままだよ。人間じゃないし、シカマルの兄弟でもない。だから怖がっていいし、化け物だって呼んでいいよ。知ってるから。」
そう言った彼の表情に変化はないがシカマルだけは不愉快だと明らかに眉間に皺を寄せた。
チョウジとイノもさすがに彼のその態度に吃驚している。
「兄貴、あんまり下らねえこと言うと本気で怒るぞ。」
「どうして怒るの?怒る必要なんかないよ。影である俺に家族だって言ってくれる人がいるだけで、それだけで俺は自我を保っていられる。」
「自我?」
「影って自我を保つの難しいんだ。そのうち俺の自我もなくなって凶暴な化け物になる。そういう生き物だから。そうなる前に消してくれると嬉しいんだけどね。」
「消すって…。」
「別に簡単なことだよ。シカマルの影縫いで本当の影に戻せばいいだけだから。」
「それ本気で言ってるのか?」
「お兄ちゃんはいつでも本気だよ。」
「兄貴じゃないんだろ。白縫が消えたいなら今からでもやってやるよ。」
シカマルが本気で怒っていることがひしひしと伝わってくる。
「シカマルが本気で怒ってるとこ…初めて見た。」
「アホ兄貴、下らねぇこと二度と言うな。」
「…ごめん。」
小さく謝った彼に大きな舌打ちをするシカマル。
シカマルにとって白縫は兄であり、大切な家族だ。
だからこそ、家族じゃないと否定される度に傷つき怒りが沸き上がる。
俺だけが家族だと思っているのかと思ってしまうからだ。