深海の忍術

□暗部 2
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力を使うことに、人を殺すことに躊躇などない。
一瞬の迷いが自分の命どころか、里の全てを巻き込んでしまうことになりかねないからだ。
暗部として火影に仕える上で必要なことは、冷静さと冷酷さ。
女子供など関係ない。
泣き叫ぼうが任務の邪魔になるものは全て切り捨てる。
そうして任務をこなすうちに火影から信頼を受け、極秘任務を任された。
それは子供の世話役。
名はうずまきナルト。
四代目火影の一人息子であり、九尾の化け狐をその身に宿している言わば救世主のような存在だ。
しかし、真相を知りもしない里の者達はナルトを蔑み、時には暴力を振るったりしていた。
お門違いもいいところだ。
とはいえ、それが里の方針なのだから仕方のないことである。
火影から言い渡された任務内容は世話役とは名ばかりで、九尾が暴走しそうになったときは迷わずナルトを殺せというもの。
酷い話だが、里ではよくあることだ。
犠牲の上に物事は成り立っているのだからどうということはない。
そんなことを考えながら横目でナルトを見やる。
毎日のように大人から化け物と罵られ、暴力を振るわれているにも関わらず、何があっても外では涙を流さない。
自宅であるボロアパートに帰ってみても両親の居ないナルトにとっては敵がいないと言うだけで、外となんら変わりがないようだ。
山積みにされたカップラーメンの1つを晩ご飯にして風呂に入り、髪も乾かさずにそのまま転寝。
毎日その繰り返しだ。
いつか身体を壊すんじゃないかとは思っていたが、やはり思ったとおりで任務開始から一ヶ月とちょっと経った頃。
夜中に高熱を出して辛そうな呼吸を繰り返すナルトが見えた。
一般的な家庭ならば親が気づいて看病するものだが、彼には当てはまらない。
唯一アカデミーの教員であるイルカが心配して顔を出しているが、昨日来ていたのだから次来るのは早くても3日後だろう。
このまま放置して監視を続けるのもどうかと気まぐれにナルトの部屋へと入った。
意識が朦朧としているから気付かれたとしても大丈夫だろう。
とりあえず濡れたタオルを額の上に乗せ氷枕をそっと頭の下へと滑り込ませれば、気持ちいいのか少しだけ呼吸音が静かになる。
朝方まで濡れタオルを何度も替え、玉子粥と薬をテーブルに置いてナルトの部屋から監視場所へと戻ると同時に目を覚ましたようだ。
濡れタオル、氷枕、玉子粥、薬に気付いたようで頭を傾げていたが、ちゃんと食べているところを見るとだいぶ熱は下がったのだろう。
しかし、まだ安静にしていなければすぐにぶり返す。
それどう伝えるべきかと思案していると、少し身体の調子が良くなったからと家から飛び出して行くナルト。
彼が向かった先は夏の暑さもあって小さな川で、数人の子供達にまざり楽しそうに水の掛け合いをしている。
びしょ濡れになったと同時に一気に身体を駆け巡る悪寒と節々の痛みに一瞬眉間にしわを寄せたナルトを見て大きなため息をついた。
全く困った子供だ。
木から飛び降りて川へと入り、ナルトを無理矢理担ぎ上げれば知らない人間のいきなりの行為に焦ったのか、降ろせと喚きながら足をバタつかせている。

「おい、アンタ!」

「何。」

「ナルトが嫌がってんだろーが。」

「だから。」

「離せよ。」

「無理。」

そう答えるや否や、すごい速さで居なくなってしまった。
向かった先はナルトの自宅ではなく、自分の家。
とりあえず風呂を沸かして、濡れた服を無理矢理脱がせれば怒ったナルトに噛み付かれた。

「…。」

「おまえ、だれだってばよ!なんでいきなり…。」

「俺は猫塚カナメ。火影様から君の世話役の任務を受けている。」

「かってにきめるなってば!」

「君に拒否権なんてない。とりあえず風呂入って。」

「やだ!」

「はあ、じゃあ一緒に入ろっか。」

そういうとカナメと名乗った彼はナルトを抱えたまま器用に服を脱ぎ、かけ湯をして風呂へと入った。
誰かと一緒に風呂に入るなど初めての経験だったナルトは黙ったままカナメをじっと見ている。

「熱あるからあんまり長湯はダメだよ。」

「なんでしって…。」

「なんでだろうね。」

そんなことを言いながらナルトを湯船から上げ、ふわふわのタオルで包み拭いていく。
いつの間に取ってきたのか、ナルトの私服を着せ、あっという間に広いベッドへと寝かされていた。
氷嚢はひんやり冷たくて心地いい。
いつの間にかTシャツにスウェットというラフな格好に着替えていたカナメは濡れタオルをそっとナルトの額へと乗せる。
その光景があの時見た黒い人と似ていて確信を持った。

「ゆっくりおやすみ。」

そう言われたのと同時に急激な眠気に襲われ、熱があることもあってすぐに眠りについてしまった。
翌日目を覚ますと隣に居る人物に抱き込まれるような状態に驚きつつ、まだ眠っている相手を起こすわけにもいかずとりあえず固まっている。

「調子はどう?」

「おきてたの?」

「これでも忍びだからね。で、体調は良くなった?」

「…だいじょうぶだってば。」

「じゃあ家に送っていくよ。」

そう静かに言うと同時に視界が暗くなった。
一瞬意識が遠のいて、それに反発するように勢い良く飛び起きれば見慣れた自分の部屋。
あれは夢だったのだろうか。
散らかった部屋、壁に刺さった手裏剣。
何も変わらない。
その事実に何故か落胆している自分が居て、真な感情を振り払うように首を振った。
その反動で落ちてきたのは一枚の紙。

「完全に治るまで川遊びは禁止。」

書かれた内容に一瞬呆気に取られたがやはりあれは夢じゃなかったんだ。
布団から出て周りを見渡してみるが会いたいと願う人物はやはり見当たらない。

「…せわやくなんてうそだってばよ…。」

小さく呟いた言葉は静かな部屋にやけに響くのだった。
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