深海の忍術
□獣 1
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「シカマル、お前何連れてんだよ?」
「あぁ?」
「クンクン、やっぱお前から獣の臭いがする。」
「こいつのことか。」
目の前にずいっと出されたのは尖った耳とふわふわの黒髪が特徴的な赤ん坊。
人間ではないその臭いに顔を歪めて何なんだと言わんばかりの表情をシカマルへと向けた。
「こいつはカゲトラ。あんま敵意出すなよ、めんどくせえ。」
「…お前動物好きだったか。」
「いや。」
「そこのいぬ、なにガンみしてんだよ。くっちまうぞ。」
いきなり敵意を剥き出しにするカゲトラ。
小さかったその身体は2メートルをゆうに超える巨体の漆黒の虎へと姿を変化させた。
溢れんばかりのチャクラと威圧感に赤丸は身体を縮こませている。
「うまそー。」
「どわああああああ!!」
「カゲトラ、やめろ。」
シカマルから発せられた冷たいその一言だけで涙を流しながらうずくまる巨体がなんとも不自然で、緊迫した雰囲気はキバの吹き出す声で明るくなった。
「あはははは!なに、カゲトラってシカマルに逆らえねえの?」
「らしいな。」
「くうーん。」
シカマルが大きなため息を零した途端にお腹をさらけ出してごめんなさいのポーズ。
寂しそうに泣く姿はその辺にいる犬となんら変わりない。
「しかまるー。」
「わかったからその巨体で拗ねるな。地響きがすごいんだよ。」
仕方なく小さい身体に戻ると器用にシカマルの頭へとへばりつく。
そして髪を玩具に遊び始めた。
「シカマルー!任務始まるわよ。」
「わり、じゃあな。」
イノに呼ばれて門に向かえば、既に皆集まっている。
シカマルが来たのを確認すると任務先へと向かうために木の葉の里から出て行った。
向かった先は一般人の多く住む港町。
最近ここで通り魔が多発していてその犯人を捕まえて欲しいというCランクの任務である。
とりあえず、一般人に紛れ込んで別々に歩き始めたが怪しい人物は見受けられない。
「…めんどくせえ。」
「しかまる、ちのにおいがする。」
「どいつだ?」
「いままがった。」
人混みに紛れて見えない相手を探して角を曲がればイノの姿があり、危険人物にはまだ気付いていないようだ。
クナイがキラリと光るのが見え、このままでは彼女が危険だろう。
しかし、影真似をしようにも人が多すぎて狙いが定まらない。
小さく舌打ちをして瞬身の術でイノの前へと立ちふさがり、なんとかクナイを止めたがもうひとつのクナイは避けられず、腕をかすった。
痛みはない。
しかし、逃げていった相手の口元の笑みが気になる。
「シカマル、大丈夫!?」
「…ん…あぁやべえな。」
即効性の毒だったらしく身体の力が抜けていき、視界が霞む。
最後に見えたのは怒りでどす黒いチャクラを放つカゲトラの姿だった。