深海の侍人
□忍び 2
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銀時の戦友には個性的な男が多く、彼もまたその一人である。
戦乱の世が去った後も銀時と共にあり続け、今は万事屋の看板を背負う仲間として共同生活していた。
「夕凪!」
「んーだよ、うっせえな。」
「お前今日ゴミ出し当番だろうが!何ゴロゴロしてんだよ!」
「めんどくせー。銀時やっといてよ。」
「それじゃあ当番の意味がねえだろ!」
「じゃあ当番制辞めよーぜ。どーせ俺やらねえし。」
「やらねえじゃなくてやれよ!」
「今の時期寒いしヤダ。」
そういって布団に潜った彼に何を言っても無駄で、諦めのついていた銀時は深い溜息を零しながらゴミを持って外へと出て行った。
しばらくして戻ってきた彼を迎えたのは、自分の服の色違いを着ている夕凪で優雅にアイスクリームを食べている。
「てめえ、寒いっつてたくせにアイス食ってんじゃねえよ!」
「それとこれとは別だろ。」
「あーー!!てめ、俺が買っておいた苺バー食いやがったのかよ!」
「なにそれ。」
「今お前の口の中に入ってるやつだ!!」
最後の一口をパクリと食べたのを見た途端に泣き出した銀時。
それを鬱陶しそうに眺めていると、隊服に身を包んだ2人組が怒鳴り声を上げながら入ってきた。
それと同時に今まで見たことがないほど冷たい表情をする夕凪。
「怖ぇ顔してんなぁ?その瞳は血に染まった奴の瞳だ。」
「あー?犬が語ってんじゃねえよ。」
「あんたが有名な黒沢夕凪ですかィ。確かに良い瞳してますぜ。」
「おい!夕凪、喧嘩売るんじゃねえよ!つーかお前苺バーの件忘れてねえだろうな。」
「買ってくりゃ文句ねえだろ。」
「おい、てめえ。誰の許可得て動いてんだよ。」
隊服の1人が動こうとした夕凪の首へと刀を向ければ、不愉快そうに彼へと視線を向ける。
その瞳は先程より深い闇を映しており、小刀を手に彼を押し倒して動脈へと切り込もうとした。
「やめろ。」
銀時の凛とした声。
それに反応した夕凪は彼の上から降り、仕方無くソファーに腰を下ろした。
「あんた、万事屋の旦那の言う事は聞くんですねィ?」
「なんだよ、ガキ。殺って欲しいならお前からでもいいぜ。」
「夕凪。」
「へいへい。」
「お前らの関係、よくわからねぇな。」
「関係つってもただの万事屋の相棒だ。」
「それにしては旦那の言葉だけに素直ってのは気になりますぜィ?」
「おはようございます!あれ、新撰組の土方さんに沖田さんじゃないですか。こんなに朝早くどうしたんですか?」
「おう、万事屋の片割れに用があってな。」
「片割れって夕凪さんですか?」
「は?俺に用なの?なに。」
「お前、昨晩どこで何してたんだ?」
「昨日?何してたっけ…忘れた。」
「お前なあ、忘れんなよ。」
「夕凪さん!昨日は銀さんに頼まれてどこかに出かけてたじゃないですか。」
「そういや天井で一夜明かした気がする。」
「お前が居たのは長道長の屋敷だな!?昨晩起きた皆殺しはやはりお前の仕業か!」
「それはねえよ。」
「なんだと!?」
「夕凪は俺から命令を受けない限り暗殺の類はしねぇ。」
「そんな言葉信用なるわけねえだろ!」
「まー確かに。忍びと主の関係はお前らになんか分かんねえだろ。話すだけ無駄だ。」
夕凪は窓へと歩くとそのまま飛び降り、何処かへと向かって行く。
流石は自由人だ。
追いかけようとした土方は窓の外へと乗り出すが、すごい速さで屋根から屋根へと移る忍びに付いていく事などできるはずもなく。
諦めたのか、空いているソファーに腰かけた。
「忍びと言っていたが、やはり黒沢夕凪の伝説とやらは本物なのか。」
「大体はな。」
「今は万事屋の旦那が主ってことですかィ?」
「今も昔もあいつは相棒だ。」
「基本夕凪さんは銀さんの命令無視しまくってますもんね。」
「ならあの惨殺も!」
「戦いに関してあいつが俺の命令無視する事は殆どねえよ。俺の命が関わる事以外に興味ねえときた。それに、夕凪は…。」
「銀時、お望みの苺バー。」
「おおおお!俺の苺バー!」
真剣な話をしていたはずなのに、帰ってきた夕凪によって渡された苺バーに目を輝かせた銀時は嬉しそうに袋を開けて食べ始める。
それに軽く溜息を零した彼だったが、先程から洩れる欠伸に限界を感じたのか。
布団の敷いてある奥の部屋へと入っていこうとした。
「寝るのか?」
「昨日誰かさんのせいで徹夜。…寝不足で死ぬ。」
「忍びは平気なんじゃないのかよ。」
「まあそりゃ訓練受けてるからどーってことねえけど、必要最低限しかやりたくない。」
「お前な…。」
「んじゃ、おやすみー。」
静かに襖を閉め布団の中に潜り込めば、すぐに眠気が襲ってくる。
それに身を任せて深い眠りへと入っていくのだった。