深海の侍人

□黒柳流
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人は呆気なく死期を迎える。
呆れるほど元気に俺をクソガキと呼んでいたオヤジ。
今はもうピクリとも動かない。
育て親の死だったが、別段悲しくなかったのは覚えている。
今まで育てて貰っておいて薄情な奴だと散々周りから言われたが、他人事のように聞こえていた。
それはあの時俺自身がオヤジの死を受け入れられていなかったのだと気付かされたのは葬式から一週間も経った後で、色々な現実を目にして変に充実した一週間だったが、今を生きることに精一杯だったせいか。
物事を深く考え込む余裕がなかった。
今もまたクビという二文字を叩きつけられ、明日からどう食いつなごうかと思案しているところだ。
そうして当てもなく歩いていると、屯所から見える長蛇の列。
何があるのだろうと中を覗いてみれば、新入隊員募集の文字が。
侍の働き口がないという世知辛い世の中故に皆必死なのだろう。
かという自分もそれに惹かれていたりする。
給料もそれなりに出る上に、衣食住の保証付きというのだ。
このチャンスは絶対に逃すわけにはいかない、そう思いながら長蛇の列の一番後ろへと並ぶのだった。
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