深海の色々

□錆喰いビスコ 1
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あれから数時間。
ビスコとユーリが暴れ回ったことで自警団の戦力を大分削いだようで、そのまま砂漠へと出ていった。
テツガザミのアクタガワに乗ったジャビ、ビスコ、ミロを横目にその場に座り込んだユーリ。
頬を流れる汗を軽く拭き取り、ニスデールを脱ぐと白の半袖Tシャツに紺色のスラックス姿で顔の左半分は全てサビに覆われている。
紫の左目は見えていないのか濁っており、ところどころ赤く染まっているTシャツは出血によるものだろう。

「ユーリ!怪我の手当てを…。」

「…クーちゃん、次に行こうか。」

ミロの言葉を無視して地面に触れると砂が吹き上がり、青色のクジラが現れた。

「な!?最強種のリククジラを連れてるとかありえねえだろ。」

「リククジラってそんなにすごいの?」

「地中に潜ってるから攻撃はほぼ当たらねえし、当たったとしても全て弾く弾力と固さを備えてやがる。暑さにも寒さにも強いわ空も飛べるわ規格外の存在のくせに凶暴で残忍な性格だからな。未だ遭遇したら必死に逃げるしか助かる方法はないっつー奴だ。」

「怖っ!そんな存在をクーちゃんって呼ぶユーリって…。」

そう言いながら彼を見やればリククジラの上でぽすりと倒れてしまう。
やはりあの怪我はすぐにでも治療しなければとミロが近付こうとするが、次々と現れたリククジラにそれ以上動くことができなかった。
ユーリが横になるそこには空気で出来た膜が張られ、そのまま砂の中へと潜って行ってしまう。
そんな彼らを見送ることしかできなかったが、ミロはユーリが心配で仕方がないようで砂に耳を当てどこへ向かったか手掛かりを掴めないかと探している。
その途端、いきなり砂の中へと引きずり込まれていった。

「ミロ!!」

ビスコの叫びは彼らも同じように引きずり込まれたことで小さく消えていく。
しばらくすると真っ暗な世界から青い灯りが灯された神秘的な建物へと辿り着いた。
先に着いていたミロはベッドに寝かされているユーリに輸血を施し、傷口を縫い合わせている。
それを心配そうに見ているのは青いリククジラに気づいたのだろう。
ミロはニッコリと笑みを浮かべた。

「薬で少し眠っているけど大丈夫だよ。」

「…寝てないけど。」

「え!?」

「…クーちゃん、俺のことはいいからご飯食べてきてよ。」

ユーリがそう言うが離れる気は無いようで、点滴の施されていない右腕に頭を擦り付けキューキューと小さく声を上げている。

「まだ動いては駄目ですよ!」

「…もう大丈夫。シャワー浴びてくるからクーちゃんもほら。みんなが心配するよ。」

「ここシャワー浴びられるの!?」

「…移動式だけど、一応俺の家だからね。」

「リククジラが運んでるようじゃな。しかし、お前さん、リククジラの女王とはどういう関係じゃ?」

「リククジラの女王?」

「リククジラは蜂と同じで女王と働きクジラで構成されておってな。ユーリがクーちゃんと呼ぶそれがリククジラの女王じゃろう。」

「お前まじ何者だよ。」

「…平凡なサビ守りだよ。ちゃんと案内できてなかったけど、ジャビさんはこちらの部屋をどうぞ。ミロとビスコ?はここ使って。ベッドとバスルームくらいしかないけど、食事は冷蔵庫にあるのを適当に取ってもらってもいいし地上に行きたいなら声かけてもらえればいつでも送ってくから。あとは…アクタガワのご飯はクーちゃんたちに任せれば大丈夫だから心配いらないよ。それくらい…かな。」

「ありがとう。」

「かたじけないのう。」

ミロとジャビのお礼に軽く頷くとシャワー浴びに行くらしく奥の部屋へと入っていった。
それを見届けると自分たちも同じように割り当てられた部屋へと入っていく。
青を貴重とした綺麗な作りの部屋には清潔なベッドが置かれ、サイドテーブルにはライトと本がある。
そして右奥側の扉の先はバスルームとなっており、洗面所と洗濯機の隣がガラス張りにされ、シャワーとバスタブが置いてあった。
手前側の扉はトイレで、反対側はミニキッチンとなっているようだ。
冷蔵庫には日持ちするハムや燻製肉、ビールやジュースなどが入れられている。
棚にはパンやご飯なども揃えられ、その品揃えの多さに驚いてしまった。
城塞都市ですらこれだけ集めるのは大変だというのにすごい。
感心しながらも敵がいないという久しぶりの空間に心落ち着くのは言うまでもなく、とりあえずベタベタな身体を洗うべきかとバスルームへ向かった。
洗濯機の上の棚を開けてみるといい香りのする洗剤がいくつかあるようで、服を脱いで洗濯機へ入れておく。
バスタオルや着替えはどうしようかと思っていたが、反対側の棚を開けるとバスタオルとタオルだけでなくTシャツとスラックスに下着まで準備されており至れり尽くせりである。
タオルを一枚取り、置かれていた石鹸をそれで泡立てて身体を洗えばフローラルな香りに包み込まれていった。
こんなふうに体を洗うのは久々だと丁寧に全身を洗っていく。
シャンプーとリンスも準備されているため、髪も洗っているといつの間にか溜められたバスタブから湯気が立ち込めている。
隅々まできれいに洗ってから湯船に浸かるとほっと一息。
こんなに穏やかな気分になったのは久しぶりで、ミロは視線を天井に向けながら目を閉じる。
あれから1時間ほど堪能していたが、そろそろのぼせてしまうと湯船から上がってバスタオルで身体を拭いてから着替えを済ませ、使ったタオル類と一緒に洗濯機を回しておく。
ドライヤーも置いてあったため、髪を乾かすのも楽だ。
洗濯機が終わるまで少し横になろうと考えたのが悪かったようでそのまま深い眠りについてしまった。
ジャビとビスコは綺麗な部屋での暮らしに慣れないながらもなんとか過ごしているようでシャワーを浴び、お腹を満たした後はそのまま転寝してしまっている。
その頃、ユーリは湯船に浸かりながら小さく息を吐いてから意識を集中させていく。
身体中に動き回るサビはサビツキとは違いキラキラしており、暫くすると左半身を占めていたサビツキを喰い尽くすと元の浅黒い肌へと戻っていった。
濁っていた紫の瞳も綺麗な色に戻り、視界も問題ない。

「…ご飯食べなきゃ。」

ポツリとそうつぶやくと、早々に湯船から上がり下着とスラックスだけの着た姿のまま冷蔵庫から燻製肉を取り出す。
骨付きのそれにガブリと噛みつき咀嚼しながら髪の毛を乾かしている。
その姿を咎めるようにいきなり現れたリククジラがキューキューと鳴き始めた。

「…パンと野菜?…俺野菜はあんまり…わかったよ。…ん。ミロに治してもらったし大丈夫。」

心配性なリククジラに小さくため息をこぼしながらも聞かないわけにも行かないとTシャツを着てから棚からパンを一つと冷蔵庫から野菜を取り出しいくつか皿に盛って机に並べる。
ドレッシングを大量に掛けようとしたが、咎められる声に途中で止め、フォークで刺しながら食べていく。
美味しくないようで進みは遅いが、確実に空になっていく皿を見てリククジラは嬉しそうだ。
パンと燻製肉も食べ終え、お皿を洗ってからベッドにダイブすると疲れた身体が休息を求め意識が微睡んでいく。
遠くに聞こえるリククジラの唄を耳に深く意識を沈めていくのだった。
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