深海の色々
□錆喰いビスコ 1
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防衛兵器の暴走によって文明が崩壊し、荒野や砂漠が広がる未来の日本。
人類は各所に城塞都市を構えて独自に統治しつつ、無秩序に野生化した防衛兵器に備えながら生き延びてきた。
その最中、有機物も含めすべてを錆びつかせる「錆び風」が猛威を奮っており、人類も錆び風により段々と錆びついてやがて命を落とす「サビツキ」に悩まされている。
「錆び風」の原因はキノコの胞子とみなされ、キノコの扱いに長けた一族「キノコ守り」は迫害を受けているが、実際にはキノコこそが治らないまでもサビツキを抑える効果があるものだ。
たからこそ、キノコ守りの一人である赤星ビスコは街中にキノコを生やしているのだが、間違った情報を信じる自警団から追いかけられていた。
棍により吹き飛ばされたのと同時にこちらへと向けられた銃口から放たれた数十発の鉛。
避けるのは無理かと諦め、来るであろう痛みに身構えるが、目の前に飛んできた矢が弾けると一瞬にして鉛が錆びつきそのまま地面へと落ちていった。
矢の飛んできた先に視線を彷徨わせれば、漆黒の弓を背に掛けた白い何かが走り寄ってくる。
いきなり腕を掴まれるとそのまま地下へと降りていった。
「痛!てめえ、誰だ。」
すごい衝撃につい声上げたビスコは白い何かを睨みつければ、フードを外しながら振り返った。
紫色の髪に真紅の瞳。
浅黒い肌と整った顔立ちは無表情故に何を考えているかわからない。
「おお、ユーリじゃないか。こんなところで会うとは奇遇じゃな。」
「ジャビ知り合いなのか?」
「まぁの。サビ守りの紫雲ユーリじゃ。」
「サビ守りとは?」
「キノコ守りはキノコの扱いに長けているようにサビ守りはサビの扱いに長けた存在じゃよ。」
「…怪我。治すからそこに座って。」
「あ?こんなもんほっとけば…。」
「ビスコ、僕もユーリさんと同意見だよ!怪我はちゃんと治療しないと。」
「ジャビさんもこちらに。」
壁に沿って座らせると二人の腕に軽く触れれば、その部分からサビが広がっていく。
「っ!!」
「…大丈夫。そのまま…。」
全身に広がっていき、数分程経つと彼の手の中へと戻っていった。
ビスコの額に流れていた血はもちろん身体を蝕んでいた毒や怪我全てを治癒させ、サビツキをも奪っていく。
「サビツキが…。ユーリさん、貴方はどうやって!?」
ジャビの身体を覆っていたサビツキが消えたことにミロは焦りながら彼へと視線を向けると目を見開いた。
サビツキが消えたわけではない。
ユーリの身体に移動したのだ。
ということはビスコの身体を蝕んでいた全ても自分へと転移させたということだろうか。
「ユーリさん!?大丈夫…。」
「…さんは要らないよ。じゃあ俺はこれで。ジャビさん、また。」
彼は軽くお辞儀をしてからそう言うと白いフードを被り外へと出て行ってしまった。
今まで毒の影響で殆見えていなかった視野が開けたビスコはいきなりのことに呆然としている。
「ビスコ?」
「アイツ…なんなんだよ。治すつーより自分に移しただけだろ。」
「サビ守りはそれができる存在だからの。」
「それだとユーリの身体が持たないのでは?」
「わかっててやってるようだな。昔からそうじゃ。どうせ治したのはワシらだけじゃないだろう。」
「…助けなきゃ。」
「?」
「だってあのまま自警団と戦うなんて無茶だよ…。」
「…仕方ねえな。」
ミロの言葉に大きなため息を零しながらも久々に感じる身体の軽さに少しながら感謝しているのだろう。
弓を手に取ったビスコは同じように地下から出ていくのだった。