深海の色々
□れでぃ✕ばと 1
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「今日は皆様のクラスに新しいご学友がお見えになりました。新しいとはいいましたが、初等部でお会いしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。どうぞ、お入り下さい。」
教師の緊張した面持ちから相当身分の高い人物であることが伺え、皆出入り口に注目している。
ゆっくりと入ってきたのはふわふわのハニーゴールドの髪に透き通るような白い肌と澄み渡るような青い瞳が印象的な少年で、無表情のせいか精巧な人形のようだ。
「ユーリ?」
「秋晴!!良かった、一緒のクラスだ!」
先程までの無表情が嘘のように満面な笑みを浮かべた彼に皆驚きを隠せないようで、教師は目を見開いている。
そんな彼女など全く気にしていない彼は秋晴の隣の席が空いていることに気付き、その隣へと腰かけた。
「編入生だったのかよ。」
「日野秋晴!あなたって人はなんて口の聞き方をなさるのかしら!この方は…。」
「この方??」
「改めまして、最北端のフレア王国第一王子のユーリ・フェンオール・フォルティス・フレア様です。中等部の3年間はご病気のためフレア王国で療養されていましたが、本年度より復学されることとなりました。」
「王子だと!?」
「今頃お気付きになるなんて庶民らしいですわね。フレア王国は何千年も歴史のある大国ですのよ。」
「秋晴?」
「ユーリって呼んでほんとにいいのか?」
「当然!」
「なりません。貴方様は外交特権をお持ちの王子様です。日本で無礼があったなどあらぬ噂でも立てば国王陛下がなんとおっしゃるか…。」
「両親は俺の話しか信じないから噂に踊らされたりしないよ。エドワードも来るしね。」
「エドワードって誰だ?」
「最高ランクの執事、エドワード・フォン・エリック様のことですか!?」
「最高ランクの執事かどうかは知らないけど、名前は一緒だね。」
「ユーリ王子、遅くなってしまい申し訳ございません。私、王子の専属執事を賜るエドワード・フォン・エリックと申します。以後お見知りおきを。」
そう言って45度にきっちりとお辞儀をしたのはブラウンの髪にエメラルドグリーンの瞳が映えた美青年で口元にはふんわりと笑みを浮かべている。
服装は執事用の燕尾服で、従育科の生徒が着ているのとは遠目で見ても違いがわかるほど洗練された上質な布で作られたものだ。
「エドワード、ほら俺を助けてくれた秋晴だよ。」
ぐいっと腕を引っ張られた秋晴はよろけながら彼の前へと立たされ、ひきつった笑みを浮かべているとくすりと笑い声が漏れる。
エドワードと名乗った彼は笑ってはいるがとても冷たい印象を受けたが、それはユーリ以外に対してだけのようだ。
「日野秋晴様ですね。」
「あ、ハイ。」
「ユーリ王子の笑顔。久しく見ていなかったのですが、貴方様にお会いできてとても良い顔をされています。これからもどうぞ、仲良くして下さいませ。」
「こ、こちらこそ。」
「秋晴、今から従育科の練習でしょ?席行ってもいい?」
「お、来てくれるのか!?いつも誰も来ねぇから。」
「やった!早くいこ。」
ざわざわしている周りなど気にも止めず、ユーリがカフェテリアへと歩き出せばエドワードがパチンと指を鳴らす。
それと同時に金の刺繍が入った赤い絨毯が引かれ、驚いている秋晴に笑いながらユーリは絨毯を歩いている。
カフェテリアの窓際の席まで絨毯が続いており、その一角だけ温室のようで他の席と分けるように扉が作られていた。
中に入るとテーブルと椅子が1つずつ置かれ、白のテーブルクロスは端に金の刺繍と散りばめられたダイアモンドが窓からはいってくる光でキラキラと輝いている。
窓から見える景色もいつもの中庭ではなく、ブルーローズが咲き乱れた噴水広場になっていた。
秋晴は初めてのことばかりで緊張しているようで、震える手を抑えながら水を出しメニューを渡すといきなりユーリがケラケラと笑い出した。
「秋晴緊張し過ぎ!あはは、ほんと面白い。」
「き、緊張するだろそりゃ!」
「えーここっていつもと同じカフェテリアでしょ?」
「いやいや!いつもは…!」
「秋晴様、少しこちらへ。」
いきなり声をかけられ、スッと誘導されるがまま温室を出るとエドワードがにっこりと笑みを浮かべている。
「なんですか?」
「ここはいつもと同じカフェテリアです。」
「そんなわけ!」
「ユーリ王子は病弱でいらっしゃいますから、皆様とご一緒では食事の際に菌やウイルスを取り込んでしまう可能性があるんですよ。ですから無菌室をご用意したまでです。」
「外の景色は?」
「病気にストレスは大敵です。では、王子がお待ちですのでよろしくお願い致します。」
エドワードは執事というだけあって有無を言わさず、納得させてしまう。
流石だ。
そんなことを思いながら温室へと戻れば、待っていたと言わんばかりの目で見てくる彼に内心ドキドキしながら口を開いた。
「決まったのかよ?」
「Fコースで。」
「Fコース?そんなもんあるわけ…。」
「ございますよ。デザートは何になさいますか?」
「んー、パンケーキかな。」
「かしこまりました。秋晴様、準備を手伝っていただいても?」
「あ、はい。」
温室を出て厨房へと入れば、いつもいるシェフが遠目で見ている先にものすごい早さで料理を作る別のシェフの姿が。
前菜はサーモンのマリネとスモークハム、そしてクラッカーの上に白いチーズとチェリーソース。
スープはオマール海老のビスク。
グリーンリーフと生ハムのサラダ。
舌平目のソテー。
牛ほほ肉の赤ワイン煮。
デザートはメニューの中には載っていなかったであろうパンケーキ。
三段重ねのパンケーキとふわふわな生クリーム。
最高級マダガスカル産のバニラビーンズ入りバニラアイスと苺が添えられ、中央には喋のカラメル細工があしらわれている。
「こちらを王子様にお持ちください。」
「全部か?」
「えぇ。ユーリ王子は好きなときに好きな食事を取られますので。」
そういってワゴンに載せ秋晴の後ろへと連なる。
机に次々と並べられた料理を見て、いただきますと呟き好き放題食べ始めた。
とはいえやはり王子と呼ばれるだけあってとても綺麗な食事風景で絵になるよう。
「これ、フランシスが作った料理と一緒な気がする…。エドワード、まさか連れてきてたりしないよね?」
「まさか。フランシスは超一流シェフですから弟子の方でもいらしたのでしょう。」
「ねぇ、秋晴。俺って特別扱いされてない?」
「え?」
「されてませんよね。」
「ハイ!」
「なら良かった!」
そう言って再び食べ始め、全てが綺麗に片付いたのはあれから3時間程たった頃だった。
しばらく外の景色を見ながら過ごしていた彼だったが、何か思い立ったのか。
にんまりと笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ!秋晴はフレアに来たことないよね?」
「…そりゃなぁ。名前も聞いたことなかったくらいだし。」
「よし!エドワード。」
「準備は整っておりますよ。」
「さすが。」
「?」
「今からフレアに行きまーす!」
「は!?」
「出発進行!」
「お、おい!学校はどうするんだよ!?それに俺パスポートとか持ってねぇし。」
「秋晴が心配することは全部エドワードが対応してくれるから大丈夫。ね?行こうよ!」
「いや、急に言われてもな。」
「俺とのお出かけ…そんなに嫌…?」
「ち、ちげえよ!」
「じゃあ何がダメなの…?俺、秋春のこと好き。だからフレアに来て欲しいって思うのはダメなこと?」
「」