深海の色々

□絶園のテンペスト 1
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「…ふああ。」

「てめ、よくもやりやがったっ。」

「朝から煩いよ、真広。助けてあげたのにその言い方、ありがとうとかないわけ?」

「あるか、んなもん!」

「…まあ期待はしてなかったけどさ。」

「千広、胸の痛みはもう大丈夫なの?」

「あ、吉野起きたんだ。もう大丈夫だよ、真広の内面の怪我が治ればなんともない。」

「…?」

「そっか、昨日途中で落ちちゃったんだっけ?俺は真広であり、真広は俺なんだよ。」

「どういう意味?」

「真広が傷付けば俺にもダメージが来るって訳。だから真広にはあまり無茶しないでほしい。」

「んなもん知るかよ。」

「痛いのは真広も一緒だし、別にいいよ。」

「てめえ、舐めてんのか!」

「どうしてそういう取り方するんだよ。真広は…。」

「煩せえぞ、吉野。」

「真広、吉野に当たるのはやめなよ。吉野、気を使ってくれてありがとね。俺は大丈夫だよ。」

「…っち。」

「千広は真広と違って大人っぽいよね。」

「千広が大人っぽいだあ!?」

「少なくとも真広よりは大人なつもりだよ。」

「なんだよ、くっそ。」

「…っ、真広手にぎんの止めて。」

無意識にぎゅっと握りこんでいた事で爪が皮膚をえぐり血が出ている。
真広の手のひらに魔法をかければすぐ消えるが、千広は痛そうに眉間にシワを寄せたままだ。
真広の痛みは千広の痛み。
そう彼は言っていたが真広より千広の方が断然痛がっているようにみえるのはなぜだろうか。

「…っ………ぅぅ。」

「千広!?」

「なーんてね、吉野は俺が真広より痛がってるように見えてるんでしょ。」

「…え、あ。」

「吉野は優しいね、真広とは大違いだ。」

「んだと!」

「ムキになるなら俺のこともっと心配してよね〜。」

「てめえのこと心配してたらきりねえだろ!」」

「そうかな。でも、真広も人の事言えないからね?」

「っち。」

「…よし、そろそろ行くね。真広も元気になったみたいだし、あとは吉野に任せるよ。」

「おいこらてめえ!」

「じゃーねー。」

すぅっと消えていなくなってしまう千広に真広はぎゅーっとキツく手を握り込み再び出血し始める。
それもさっきより酷く肉にしっかりと食い込んでいた。

「あーあーあーあー真広のバカ!もー何で握っちゃうかな。血が凄いことになってるじゃん!俺が手握ってるからもうしないでよ。」

「…じゃあもう勝手にいなくなんなよ。」

消え入るような声で呟いた真広の言葉が届いたのだろう。
クスリと笑って頷いた。
最初からそういえばいいのに、そう耳元で告げるところはさすがである。

「千広は真広のことよく見ているんだね。」

「片割れだからね。真広のことだけは目につくんだ。」

「俺はお前探すのに必死なのに呑気なもんだな。」

「真広が探してくれるから俺も見つけられるんだよ。真広が探してくれなかったら俺は大分前に消えてる。」

「消えてるってどういうことだよ。」

「ん?ここにいる必要がなかったら俺は混沌の木に戻らなきゃいけないんだよ。でも真広が俺のこと必要としてくれるでしょ?だからここに居られる。」

「…俺は、ずっとお前が必要…だぜ?」

「知ってる。だから一緒にいるんだよ。」

そう言って笑っている彼は本当に嬉しそうで、真広のことを心から大切に想っていることが伺えた。
千広にとって唯一現世に繋ぎ止める存在の真広だから余計だろうか。

「俺はずっと真広のそばにいるよ。真広を傷付ける奴は例え吉野でも殺すから、そのへんは覚悟しておいてね。」

にっこりと笑みを浮かべながらも吉野が真広に隠し続けている内容を知っているかのような口ぶりに思わず息を飲んだ。

「何か心に来るものがあったみたいだね。今は触れないで居てあげるけど、そのうちえぐるよ。」

「…。」

「ふふ。君の反応は本当に面白いね。」

「お前らだけで会話するなよな。」

「嫉妬してくれた?うれしいなー。」

「嫉妬!?するわけねぇだろ。」
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