深海の色々

□サムライチャンプルー 1
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ムゲン、ジン、フゥの3人は向日葵の匂いのする侍を探してあちこちへと旅をしている。
しかし、毎度ながら騒動に首を突っ込む体質である彼らはなかなか次へ進めないでいた。
今日も今日とて空腹で倒れそうになりながら小さな茶屋の椅子へと座り込む。

「いらっしゃい。何にしますか?」

「すまない。宿代もままならぬ身、少しだけ休ませ…。」

「ああああああ!!」

いきなり大声を出したムゲンの指し示す先には茶色っぽい短髪にムゲンの様な洋装を纏った青年の姿があり、みたらし団子を頬張りながらお茶を啜っている。
彼は全く気にした素振りもなく新しい団子の串へと手を伸ばそうとした。
それを邪魔したのはムゲンの刀で軽く指をかすったらしく彼の指から血がぽたりと落ちる。
それと同時に一閃が放たれ、襲い掛かるが簡単に避けられ隣の席に座って優雅にみたらし団子を食べていた。

「凄い…。ムゲンの刀かわすなんて。」

「あの動き…相当な手馴れだな。」

「キサラギ、会いたかったぜ。」

「…誰だっけ。」

「てめ!」

「冗談。」

「相変わらず良い腕してんじゃねえか。」

「ムゲンは隙多すぎ。」

「うっせえよ。つか腹減った。飯食わせろ。」

「ん。おじさん、天そばと団子。」

「わかってんな。」

すぐに持ってきたそばを一気に啜り始めるムゲンの姿に思わず腹の虫が鳴るジンとフゥ。
ゴクリと喉を鳴らしながら羨ましそうな視線など全く気にした素振りのない2人は似た者同士らしい。
キサラギと呼ばれた彼は軽く食事を終え横に置いていた刀を背負うと茶屋の主人にお金を払いムゲンに声を掛けることもなくそのまま歩き始めた。

「キサラギ、お前これからどうするつもりだあ?」

「ひと稼ぎしようかなって。」

「ひと稼ぎってお前まだやってんのか?」

「まあね。一番手っ取り早いし強い奴と戦えるから俺も楽しめるし。」

そう言いながら刀を鞘から抜いたかと思うといきなり一閃を繰り出す。
それと同時に木の上から生首がごろりと転がってきた。

「ひゃあ!」

いきなりのことに叫び声を上げたフゥだが他の2人は全く気にならないようでジンに至っては刀を抜いたかと思うとキサラギへと襲いかかる。
刀と刀のぶつかる音が響き渡った。
そんな状況にも全く動じない彼は大きな欠伸を零していたのにも関わらず、いきなり目つきに変わり刀を奪われたかと思うと首元に切っ先が当てられている。

「強い…。」

「キサラギに死合求めるなんざアホだな。」

「どういう人なの?」

「どういう人って俺は普通の侍だよ。」

「普通の侍でそれほどの腕前は持っていないだろう。」

「それはあんたも一緒でしょ。それともあんた変な侍なの?」

「そういうわけではないが、どこの流派の者だ。」

「流派ってなに?」

「師匠は誰だ。」

「師匠…賞金首の奴らかな。」

「は?」

「賞金首殺る度強くなってくから師匠じゃないの?」

「いや、それは違う気が…。」

「そなの?」

「一番最初に刀を持った切っ掛けは?」

「友達助ける為?」

「誰かに教えてもらったりしなかったか?」

「教えてもらってないね。というか教えてもらわないと刀って持てないものなの?」

「そういうわけではないが、それほどの腕になるには相当な努力がいったのではないか?」

「別に。努力なんかしなくてもその場の状況で覚えるもんだよ。」

「それは才能のあるものだけだと思うが…。」

「才能がない人は刀なんか持たないでしょ。どーせ使えないなら飾りと一緒だ。」

「確かにそうだな。」

「じゃ、俺もう行くから。」

「俺も一緒に行くわ。」

「ムゲン!私との約束はどうするつもりよ!!」

「知らねえよ。」

「ムゲン。女の子とした約束は守らないとダメだと思うよ。」

「そうよ!ひまわりの匂いがするお侍さん。ちゃんと探してよね。」

「ひまわりの匂いがする侍?どっかで聞いたことあるような…。」

「え!?」

「あ、気のせいだった。」

「あのなぁ!!」

「なんでその人探してるわけ?」

「よくわからないが、フウの探し人のようだ。」

「へぇ。興味あるし、俺もその侍探しの旅参加しても良い?」

「それは構わないけど…。」

「じゃあちょっとそこに居る賞金首狩って来るから待ってて。」

そう言って刀を向けたのは静かに座ってお茶を飲んでいた侍で、彼もまた反応するように刀を抜く。
視線があった瞬間に繰り広げられる剣術はムゲンとジンですら目を見張るもので、とくにキサラギという彼はムゲンのような身体的能力と刀技を連携させ、気付けば侍の真後ろに現れにんまりと笑みを浮かべてから首を撥ね飛ばした。

「終わりっと。これから町目指すんだよね?なら賞金首の換金したい。重いし、邪魔だからね。」

「飯と宿代頼んだ!」

「金ないの?」

「ないぞ。」

「…ないな。」

「…ありません。」

「わかった。宿とご飯は俺の方で用意するから。でも文句はなしだよ。」

その言葉に何度も頷く彼ら。
やっとまともな寝床にありつけると嬉しそうだ。
あの後、賞金首を換金したキサラギが案内したのは街一番の遊廓で綺麗な女性達が出迎えてくる。

「え!?ここ!?」

「桃歌に来るよう頼まれてるから。」

「桃歌さん?」

それは誰だと問いかける前に花魁姿の綺麗な女性が駆け寄ってくるとキサラギへと抱きついた。

「キサラギ様、お会いしたかったわ。わたくし、キサラギ様をお待ちして朝も昼も夜もずっと…してたんですからね。」

間の部分は聞こえなかったが、色気のあるその姿だけで十分だ。
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