深海の遊盤
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ユーリ・ローウェルの弟で帝国騎士団団長のレオン・ローウェル。
金色の髪に金色の瞳。
瞳孔は猫のように細く、無表情。
自分の障害になるものは簡単に切り捨てる冷酷さを持っている彼は帝王から絶大な信頼を寄せられていた。
そんなある日。
彼の兄であるユーリが貴族を殺したという情報を受け、下町へと降りる事になった騎士団団長の白銀の鎧を見た町の者達は恐れおののいている。
「団長様が下町に来るなんざ珍しいじゃねえの。」
いきなり聞こえてきた声の主は屋根の上から飛び降り、レオンの目の前に立つ。
しかし、驚いているのは下っぱの騎士だけで彼は冷たい視線のまま降りてきた漆黒の髪の青年を見据えていた。
ニヤリと笑みを浮かべて刀を引き抜き、一閃を繰り出す彼だがそれを素手で何の迷いもなく受け止めるレオンの実力は計り知れない。
一歩間違えれば指の1本や2本は簡単に切り落とされかねないのだが、彼には関係ないようだ。
「ユーリ・ローウェル。お前を貴族殺しの罪で拘束する。」
帝王からの書状を見せながら言うのはレオンの隣にいる大柄な男で、ユーリ自身は捕まる気などさらさら無いらしく掴まれていた刀を引き抜き軽快な足取りで逃げていった。
それを追おうと動き出した騎士団を止めたのは、団長であるレオンで何故止めるのだと不思議そうな顔をしている。
「何故止めるのですか?」
「土地勘の無いものが追った所で結果は見えてる、そう言う事だろう。」
「副団長…。」
そんな会話をしている間にレオンは塀へと飛び乗り重装をしているにも関わらず身軽な身のこなしで何処かへと向かっていった。
「僕から逃げられると思ってるの?」
「まぁ無理だろうな。」
「なら大人しく捕まりなよ。」
「お兄様にそれはないんじゃねえの?」
「お兄様だからこそ優しくしてるんだよ。本来なら有無を言わさず足の一本や二本奪ってるところだ。」
「相変わらずの冷酷さ。誰に似たんだか。」
「兄さんに似たんじゃない?迷いや恐れの全くない太刀筋で人を殺せる者はそういないよ。」
「可愛くねえな。」
「…騒がしいのが来たね。」
「団長!」
「大罪人ユーリ・ローウェル!」
「団長様は俺を捕えるのか?」
そう言った彼の口元には笑みが浮かべられ、視線をレオンへと向ける。
それと同時に重い鎧が地面に落ちたかと思うと蒼いカットソーと黒いパンツというラフな格好の彼が立っていて、普段容赦無く敵を切り捨てる大剣ではなく盗賊の使うショートブレードが握られていた。
口元の笑みはユーリそっくりでどういう事だと騎士団員は頭を混乱させている。
「団長!その恰好は…?」
「俺、騎士辞めるよ。兄さんを売ることは出来ないしね。」
「帝王様からの絶大な信頼を簡単に裏切るおつもりですか!?」
「うん。別にそんな信頼あっても何の役にも立たないし。」
「役に立たないとは…。」
「だってそうだろ?信頼を得て出世するだけ。正直全然興味ない。」
「興味ないだと。」
「ないよ。他人の信頼なんて何になるの?俺にとっては何の役にも立たない」
「」