深海の侍人

□忍び 2
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「ありえねぇ…。」

「これだけの機械を相手にするのはな。」

「こんなもんバズーカーで一発ですぜィ。」

「やめといた方がいい。」

「お前は黒沢夕凪!!」

「あの玩具は中に爆弾入りだ。バズーカー当てたら一斉に爆発して全員あの世行き。」

「なんでそんな情報持ってやがる。」

「多串君それは愚問じゃねえか?あいつは忍びだぜ。」

「土方だ!」

「そんなことより、どうすればいいんだ!?」

「玩具つーのは所詮動力使ってんだよ。そこに的確に一発決めれば止まるだろ。」

「いやいやいやいや!こんなにたくさんを一つずつやるってなるとその前に殺され…。」

「なら他に案あんの?」

「ねぇけど…。」

「なら文句言うな。玩具の動力は右腕下から突き一発。さっさとやろーや。」

そう言った夕凪は身軽に動いて次々と機械を壊していく。
それに同調されるように動き始めた彼ら。
しかし、多勢に無勢。
休みなく襲いかかってくる機械に1人、また1人と倒れていった。
残っているのは新撰組局長の近藤、副長の土方、特攻隊長の沖田。
そして銀時と桂に夕凪である。
次々と出てくる機械の元を止めなくては埒があかない。
そんなことを思っていると聞こえてきた凛とした声。
怒気を含んだその声に皆、余裕綽々にふんぞり返っているこの出来事の首謀者へと視線を移した。

「胴元!!わたくしは貴方を絶対に許しません!」

「長道長の姫君じゃないか。お前が生きていたとはのう。」

「貴方はわたくしの手で殺します!」

慣れない銃を手に首謀者である胴元に発泡した姫。
しかしそれは彼に当たることなく用心棒の刀によって消え、彼女へと襲いかかる。

「夕凪、姫を助けろ!」

銀時のその叫び声に反応して動いた彼は一瞬にして姫の目の前に現れると簡単に相手の首を刎ねてしまった。
彼女を担ぎあげ、出来る限り安全な場所へと動き出したその時。
辺り一帯に響き渡る銃声。
彼の身体に空いた穴はその威力を物語っている。

「キャアアアアアアアア!」

「夕凪!!!!」

「…っ。煩ぇ女だな、そんな叫ぶなよ。」

「その身体でよく立っていられるのう。もう一発食らわせてやろうか。」

「遠慮しとくわ。つーかあんたの玩具、もう動かねえのによくそんな余裕あるよな。」

「なにっ!!」

「動かない玩具はただのガラクタ。守ってくれる用心棒の首は落ちた。どうするつもりだ?」

「…か、金ならいくらでもやるっ!だから、命だけはっ!」

「その辺は後ろの奴らと相談して。」

そう言って姫を下ろせば冷静に自分の腹に空いた穴に手を当ててみた。
痛みが不思議と少ないのは脳内麻痺が始まっているからだろう。
新撰組が捕まえた所、そして大泣きする姫を見ていると傾いていく身体。
俺は死ぬのか。
そんなことを考えていると見知った銀髪が目の前に現れた。

「夕凪!しっかりしろ…今病院に!」

「ぎん、とき。…も、むりだ。」

「ふざけんな!絶対助けてやる、だから…。」

「俺は…しの、びだ…ぜ?わかる…つーの。」

「…っ。」

「ざま…ね…な。」

「夕凪?嘘だろ…?起きろよ、夕凪!なぁ…起きてくれよ…。」

銀時の腕の中で何も映さなくなったその瞳。
近くに来た桂がそっと目を閉じてやると同時に手に冷たい感触が当たり、それが銀時の涙であることを理解する。
ポロポロと流れ落ち、彼の顔を濡らしあの時俺が夕凪に姫を助けろと頼まなければ…そればかりが頭に浮かんだ。
身体に大穴を開け、それでもなお自分達を助ける策を冷静に遂行する。
この戦いは彼無しでは勝てなかったという事実なだけに新撰組の彼らも黙り込んでいた。

「銀時…。」

「俺のせいでまた…。」

「そんなことはない!」

「あるだろうが!夕凪が死んだのは俺のっ。」

「…うっせえなぁ。疲れてんだよ、静かに寝かせろ。」

「はあああああ????」

「痛ぇ。」

「夕凪、だよな?幽霊とかじゃ…。」

「はぁ?幽霊なんか居るわけねえだろ。」

「お前、さっきの会話…。」

「病院行って縫ったら助かる。」

「…俺らは先に行くぜ?」

傷だらけの身体を引きずりながらやって来た新選組は上層部に身柄を引き渡す。
吃驚しすぎて対応出来ずに固まってしまった銀時をそのままに救急車で病院へ運ばれた夕凪は、宣言した通り軽く縫っただけで治療が終わった。
どちらかと言えば、銀時や桂。
そして新撰組の彼らの方が重傷らしく1週間は入院だと宣言されている。

「大変だな。俺は消毒に通うだけで良いってさ。」

「おま、どーいう身体してんだよ!」

「ぷっ。もしかして俺があの弾に当たったとかまだ思ってんの?」

「当たってただろ!」

「あれは忍術の初歩で簡単な幻術。相手にこっちより有利って思われてる方が何かと都合が良いんだわ。」

「…ふっざけんなよ!俺がどんな気持ちになったと思ってやがる!」

「敵を騙すならまず味方からだろ。」

この言葉に銀時の怒りが爆発したのは言うまでもない。
騒動が収まり、やっと万事屋にも平和な1日が戻ってきた。
とはいえ、あの喧嘩はまだ収まっていないらしく未だに銀時は夕凪と一言も口をきいていない状態だ。
彼から一言謝れば済む話なのだがそれをせず、ただただ睡眠を貪っているその姿に新八と神楽も呆れ顔。
しかし、銀時はまだ不安が拭えないのか。
口はきかないのに1日に何度も何度も彼が居るか確かめに部屋をのぞき込んでいた。

「銀ちゃん、またやってるアル。」

「目の前で1度死んだのを見たから不安なんだよ、きっと。」

「なんで生き返った?」

「僕も聞いた話だからよく知らないけど、幻術を使って騙してたみたい。」

「幻術?よくわからないアル。」

理解できないとわかった途端に興味を無くした神楽は酢昆布片手に定春の散歩へと繰り出し、新八も軽く銀時に声をかけてスーパーの特売へと出掛ける。
それを見送ると同時に夕凪の寝ているそばまで近付き、呼吸を確認してみれば僅かだが風を感じた。
布団をめくり、大穴の空いていた腹部を確認してみると大したことないと言っていたはずなのにも関わらず未だに厚みのあるガーゼと包帯に包まれたそこ。
普段ならこの時点で起きる彼だが、今日は前々から計画していたことを実行したこともありちょっとやそっとじゃ起きないだろう。
軽く叩いて見ても反応を示さない事を確認してからそっと包帯を外していく。
ぐるぐる巻きにされた包帯は途中から部分部分が赤く染まっていてガーゼに行き着く頃にはしっかりと赤を含んでいた。
一度目を閉じて深呼吸をしてからそっとガーゼを外せば、酷い出血と縫い跡。
素人の目から見てもすぐにわかるほどの大きな傷。
やはりあの時夕凪は一瞬だがあの世に行きかけたのだろう。
しかし、銀時が自分を責めることを分かっていたからこそ生へと執着し心配させまいと隠し続けたのだ。

「ばか、やろ。」

ポツリと零したこの言葉にはいろいろな感情が含まれていて、とりあえず桂の知り合いの名医を連れてくるように頼む。
酷く痛むのか。
眉間に皺を寄せる夕凪だが、呻き声1つあげないのはさすがだ。
医者が現れ、抜糸して状況を確認するや否や一緒に連れていた女性二人に指示を出し忙しなく治療を施している。

「生きてるのが不思議なくらいだ…。」

「夕凪は…?」

「よく耐えているな。これだけの傷、痛みで正気を失ってもおかしくない。」

「助かるのか?」

「内臓の損傷、出血量を考えるともってあと数時間じゃな。」

その言葉に絶句した。
まさかそんなに早く別れがくるとは思っても見なかった。
夕凪なら治るんじゃないか、そう期待していたのだ。
しかし現実はそう甘くはない。
死ぬと言うことはもう二度と喧嘩することも笑うことも出来ないという事で分かっているはずなのに頭がその答えを拒否している。

「とはいえ、今飲ませた薬が効けば回復する可能性はある。彼の身体は自然治癒力に長けているようだからのう。それを逆手にとって身体内部から治させるというわけじゃよ。今夜が峠だ。」

落ち着いた声色でそう言うと点滴を軽く調整して隣の部屋へと移動した。
薬を作っているらしく薬草を摩る音が聞こえてくる。
それを聞きながら夕凪の無表情な顔をのぞき込んでいるとふるふると瞼が動きゆっくりと開いた。

「…ふぁぁ。」

「夕凪!」

「…。」

「もう起きねえかと思った…。」

「睡眠薬飲ましたろ。」

「げっ。」

「俺は薬やら毒やらは飲み慣れてんだよ。」

「慣れてるとしても効いてたじゃねえか!」

「そらこの怪我なら嫌でも効くつーの。」

「なんじゃ、騒がしいのう。」

「…誰だ、この爺ぃ。」

「おい!手当して下さった方になんてことを…。」

「俺1人でも治療位できる。」

「確に治療に関しては完璧じゃ。しかし輸血は出来ない、そうじゃないかのう。」

「出来るけど?」

「どうやるつもり…。」

「簡単。殺るときに動脈から血抜く、そんだけだ。」

「しかし、血液型が合わなければ死に至るんじゃぞ?」

「忍びを舐めんなよ?」

そんな軽い調子で言いながらも開いていた瞳をゆっくりと閉じていく彼。
話し方だけだと元気に思えてしまうが、腹部に負った傷はそんな軽いものではない。
医者はその様子を見ながら吸い飲みに入った水薬をそっと飲ませていく。
咳き込まずに済んだのはいつの間にか戻って来ていた看護士の女性が首を起こしたからだろう。 
枕へと頭を沈め、再びすうすうと寝息を立て始めた夕凪に一安心。
医者もこれなら大丈夫だろうと言葉をもらし、薬と包帯にガーゼと消毒液を置いて銀時に手当ての仕方を伝えて帰って行った。

「銀時、大丈夫か?」

「あぁ。」

「あまり心配し過ぎるなよ。」

「わかってる。」

桂の言葉に頷きながらもその表情は全く持って信用ならないもので、小さくため息をこぼした。
あれから数ヶ月怪我の治療に専念していた夕凪だが、相変わらずのてきとうな態度で毎日銀時の怒鳴り声が聞こえてくる。

「お前そろそろ本気で怒るぞ!」

「銀時は毎日怒ってばっかだろ。そんなんじゃそのうち血管破裂すんぞ。」

「そう思うなら大人しくしてろよ!」

「無理。忍びが大人しくしてられるわけねぇ。」

「期間限定だからそれくらい我慢できるだろ!子供か、お前は。」

「これでも我慢してるけど?」

「はぁ…俺が出掛けてる間、大人しく寝てろよ。」

「へいへい。」

そう言って見送った彼だが、銀時を1人で出掛けさせるわけもなく気配を消して付いて行けば、思った通りの展開。
依頼人の無理な願いを請負い、敵の巣窟である建物に木刀1つで入っていく勇気は流石だ。
暫くは補助に徹しようと手裏剣とクナイを手に見守る体勢を整える。

「万事屋銀ちゃん参上っと。」

銀時はいつも通りのふざけた態度のままなぎ倒して行く。
鬱陶しいぐらいの敵は次から次へとやってくるが、とりあえず叩き切るしかないかと軽くため息。
暫く無言で次々と倒していたが、いきなり上を向いた。

「夕凪、居るんだろ。」

「…。」

「はぁ、なんでついてくっかなぁ。」

「銀時守んのは俺の役目だろ。」

スタッと綺麗に降りてきたのは忍び服姿の彼。
彼が本業の服装をすると言うことは本気で銀時を守るつもりで来たということだ。

「…おま、その格好…。」

「久しぶりに着たからちょっと窮屈。」

「なんでまた。」

「…お前が無茶するから。俺もこの前ので本気ださねぇと銀時が傷つくのわかったからさ。俺が死んだらお前生きていけねぇだろ。」

「その自信どこから来るんだよ。」

「さぁーな。よし、とりあえずこの鬱陶しいゴミでも片付けるか。」

「おー。目指すは頂上!」

銀時の人差し指が遠くを指すのと同時にぼとぼとと落ちていく血肉。
一瞬のうちに沢山いたはずの衛兵達は血だらけで床に倒れている。
それを踏みつけながら平気で歩いていく夕凪。

「はえーよ!!」

「本気出すって言っただろ。」

「確かに言ってたけど、おま早すぎるだろ!」

「あーうざってーな!せっかくの服が汚れてるし。」

「しょうがねえだろ。」

「ん?なんだあいつ!俺の攻撃避けてやがる。」

飛ばした手裏剣が1人外れた事に文句を言うと一気に追い詰め、クナイでとどめを刺せばにやりと笑みを浮かべた。

「お前、また血だらけにしてんじゃねえか。」

「返り血浴びるのって興奮するだろ?」

「変態とか銀さんドン引きだよ。」

「失礼な奴だな。忍びなんてもんは殺す事が仕事なんだ、普通だろ。」

「へいへいっと。あーボスのお出ましってやつか。」

目の前に立っている大男を見上げながら大きなため息を吐く銀時と好戦的な視線を向ける夕凪は対照的で、どこから出してきたのか大量の手裏剣が大男に向かって行く。
彼は近くにあった大きな扉の残骸で防ごうとしたが、鋭利な手裏剣はあっという間にそれを通り抜けて向かってくるため意味はなかったようだ。

「ぐああ!
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