Novel
□ひな祭り
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ひな祭り
身を凍らせるような寒い冬を後にして、もうすぐ暖かい春がやって来る。
…そんな期待が徐々に膨らむ、3月。
部屋の窓から吹き抜ける、まだ仄かに冷たい風を肌で感じながら、私はいそいそと、押し入れから出してきた大きな段ボール箱を開けていた。
「おい、何してんだ?」
テレビを見ていたお兄ちゃんは、そんな私を見て不思議そうに声を掛ける。
「何って、今からお雛様を飾るんだけど…」
お兄ちゃんは、お雛様? と眉を寄せつつ段ボール箱に近寄ってきた。
そして箱の中身を覗いたかと思うと、一言。
「お前、まだそんなもん家に仕舞ってたのかよ。
早く捨てちまえ」
「も〜なんでそういう事言うかなぁ! 毎年飾るの楽しみにしてるんだから」
私はムッとしながら口をへの字に曲げる。
全く、お兄ちゃんはすぐにそういう事を言うのだから。
「それって、子供が飾るもんじゃねぇのか? お前今いくつだよ」
「歳なんて関係ないよ! ひな祭りは、女の子の幸せと成長を祝うお祭りだもん! いくつになってもいいんですっ」
ぷいとそっぽを向いて、お兄ちゃんの言う事は無視して、箱の中身を取り出していく事にする。
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