Long Novel
□V
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「お兄ちゃん、これ…」
「……やるよ、安かったんだ」
お兄ちゃんは、ぶっきらぼうにそう言っただけだった。
やっぱりそうらしい。
そっと指先で薄緑色のクローバーに触れると、それは私の手の中でキラリと輝いた。
胸から温かい気持ちが溢れ出す。
……嬉しい…。
私の誕生日に、こんなに素晴らしいプレゼントをくれる人が、二人もいるなんて。
私は何て幸せなのだろう。
でもどうして、お兄ちゃんは幕之内さんと同じ店の物を買ったのだろうか…?
たまたま被ったにしては
偶然過ぎるし。
まさかあの二人が、一緒に買い物に行くはず無いし。
疑問を浮かべながら綺麗に箱から包装を取り外すと、ぴらりと何かが足元に落ちた。
どうやら小さな紙のようだが。
ゆっくりとその場にしゃがみ拾ってみると、紙には丁寧な文字でこう書かれていたのだった。
『お二人に祝われる、幸せな貴女様へ
お誕生日おめでとうございます』
途端に、笑みが零れる。
どうやら、幕之内さんとお兄ちゃんは本当に一緒に買い物へ行ったらしい。
あの二人が、一緒にかぁ…。
なんだかその様子を想像するだけで、可笑しくなってしまう。
きっと幕之内さんは、終始びくびくしていたに違いないだろう。
でも、少しはお兄ちゃんと仲良くなれたかもしれないな…。
だが敢えてお兄ちゃんには、幕之内さんの事は聞かないでおこう。
きっとムキになって、機嫌が悪くなるに違いないから。
「…お兄ちゃん、ありがとね」
返事は無かったが。
私はしばらく微笑みながら、優しい兄の背中をじっと見つめていたのだった。
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