Long Novel

□V
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久美は、驚いて目を見開く。

「あ…そうか。
お兄ちゃんって、あんまりマフラー巻かないもんね」

「ちげぇよ」

「…っ?」

間抜けなその返答に、思わず睨んでしまう。

「他の男の為に作ったもんを、やすやすと貰えるか」

何となく察しがついていた。
どうせ渡すのに尻込みして、結局幕之内に渡せなかったのだ。
そんなもんを俺が貰えるとでも?
赤の他人、ましてや幕之内に渡すはずだったものなんて、死んでも貰うか。

しゅんと久美が落ち込んだ様子を見せる。

「そ…そうだよね」

(…なんなんだよ)

本当に。
一生懸命編んだものだろ。
徹夜までして、あんな奴の為に長い時間を掛けて作ったものなんだろ。
それだけ好きなら、渡しゃあいいだろう。
なのに、なんで今更こんな所で尻込みしているんだ。
…苛々する。

(くそ、マジで腹立つぜ)


「……ちっ。行ってこいよ」

「えっ!?でも」

「このままだと、晩飯が不味くなる」

「だけど…」

いいから…早く、

「早く行ってこいっ!」

俺は久美に向かって、きつく怒鳴る。

「う、うん」

慌てたように家を出る久美。
これで、いいのだ。

これでもしも、幕之内が受け取らなかったりしたら。

(そん時は…殺す)



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