Long Novel

□V
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「あ、お兄ちゃん。
今日早かったんだね。

…あ、そうそう!はい、これ」

久美は帰って来るなり、俺の前に何かを差し出した。

「なんだよ、これ」

…長めのタオルのようだが。

「スポーツタオル!しかも名前の刺繍入りだよ。今日バレンタインだから!」

バレンタイン?
ちらっと壁のカレンダーを見ると、今日は2月14日だ。

「そうか…そういやそんな日があったな」

成る程…だからあんなに一生懸命マフラーを編んでいたのだ。
これで納得がいく。

手にとったタオルを見ると、端の方に小さく『Mashiba.R』と綺麗に刺繍してあった。

「久美が刺繍入れたのか」

「うん!」

「…そうか」

バレンタインといえばチョコ、というのが主流だが…久美の事だ。
俺の減量を気にして、食べ物は避けたのだろう。
それよりも驚いたのは、この刺繍だ。
マフラーだけで手一杯だったはずなのに、いつ刺繍をする時間があったのだろうか。

(…今度使うか)

せっかく、くれたタオルだ。ボロボロになるまで使ってやろう…。
そんな事を考えていると。

「あと…これも!」

久美は一瞬辛そうな顔をすると、俺の目の前に紙袋を突き出した。
受け取り、中身を覗いてぎょっとしてしまう。

紙袋の中には、久美が徹夜で編んでいた、幕之内に渡すはずのマフラーが入っていたのだ。

「お兄ちゃん?」

しばらくマフラーを見入っていた俺に、久美が心配そうに声をかける。

「…らねぇ」

「えっ?」

「いらねぇよ、こんなもん」


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