Long Novel

□V
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その日の真夜中。

いつものように部屋の明かりが、襖の隙間から漏れていた。
あいつの為だと知ると、妙に気になってしまう。
これで、もし久美とくっついたりでもしたら…。

許せん。

何か一言言ってやろうと思い襖を開けると、久美はすやすやと眠っていた。
夢でも見ているのだろうか、とても優しい寝顔だった。

(ま…まさか、奴の夢なんかじゃねぇだろうな)

だとすれば、今すぐ叩き起こさなければ。

肩を揺すろうとして、机の上の物に目が止まる。
久美のすぐ横には、編みかけの編み物が置いてあった。

(あれだけ時間かけてんのに、まだこれだけしか出来てねぇのかよ)

開かれている本のページを見ると、どうやらマフラーを編んでいるようだ。

(マフラーって…おい。
これが、あの長さになるんだろ。
こりゃあ完成するまで、かなり時間かかるぞ)

久美は最近仕事が忙しく、帰って来るのも遅い。
それなのに、必死に時間を見つけて徹夜までする有様だ。
幕之内の為に、そこまでする必要があるのか。
…そこまで、好きだって事なんだろうか。

「…ちっ」

考えれば考えるほど、腹が立つ。あんな奴のどこがいいのか。

だが、妹がこんなにも一生懸命になって作っているのだ。

もしも…だ。

(もしも、あいつが受け取らなかったりしたら…
そん時は、殺してやる)

側にあった毛布をそっと久美の肩に掛ける。
幕之内の為というのが、気に食わないが…。

妹の頑張る姿を見るのは、そんなに悪くないな。

久美の優しい寝顔を見て、そんな風に思ってしまう甘い自分がいたのだった。



―――



それから数週間後。

夕方、仕事が早く終わり家に帰った俺は、テレビを見ながらぼーっとしていた。

そんな所へ、久美が帰ってきた。

「ただいま」

「おぅ」


玄関に立っているその姿を見て、ふと気づく。
何やら久美の様子がおかしい。
本人は平然と装っているようだが、見ればわかる。
これは何かあったな…。


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