Long Novel

□Valentine's Day T
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「あぁっ!
くくく、久美さん!?
ど、どうしたんです、こんな時間に」

戸から顔を出した幕之内さんは、私を見て驚きの表情を浮かべている。

「えっと…その」

何と言えばいいのか…。
じっと押し黙ってしまう。

「と、とりあえず。寒いですし…家、上がりますか?」

「はい…」

私に何か用事があると見た幕之内さんは、何の躊躇いもなく家の中へと入れてくれた。

「今、夜釣りで誰もいないんですよ」

「そうなんですか」

そんな会話を交わしながら、私達は机を挟んで向かい合わせに座る。

…気まずい沈黙。
時計の音と、速くなった自分の鼓動だけがその場に聞こえる。

「あー…っと。
い、今、コーヒーいれますね」

沈黙に耐え兼ねた幕之内さんが席を立つのを見て、ようやく重い口を開くことが出来た。

「幕之内さん」

「は、はい!?」

ここで聞こう。
バレンタインのプレゼントを渡す前に、ハッキリさせなければ。

「幕之内さんは……。
菜々子ちゃんの事が、…その、好き…なんですか」

必死に絞り出した声は、少し震えていたかもしれない。
幕之内さんは、目を丸くして私を見ている。

「えぇっ!?いきなりどうしてそんな」

「好きなんですか」

ハッキリさせて欲しい。
幕之内さんの口から、私に言って欲しいのだ。

「…久美さん?」

じっと幕之内さんの表情を見ていると、彼は不意に目を逸らし、ゆっくりと口を開いた。

「ぼ、僕は。
菜々子ちゃんの事は…好きですよ」

その瞬間、胸が水でも流し込まれたかのように一瞬にして冷たくなった。
やっぱり、そうなんだ。
分かっていた事だったが、その言葉を聞くのは想像以上に辛かった。

こんな事なら、来なきゃよかった…。
言わなきゃ、よかった。
涙を我慢して下を向き、ぐっと口を結ぶ。


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