Long Novel

□Valentine's Day T
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「そ…そうだよね」

そうだと解ると、今まで我慢していたものが一気に込み上げ、視界がぼやけてきた。
駄目なのに。ここで泣いたら、駄目だ。
ぐっと口を結び、涙を堪えていると。

「……ちっ。行ってこいよ」

お兄ちゃんが一言、私を突き放すように言った。

「えっ!?でも」

「このままだと、晩飯が不味くなる」

「だけど…」

行ってどうするのか。

幕之内さんの所へ行って、手編みのマフラーなんて渡したら、きっと迷惑になってしまう。
幕之内さんが好きなのは、菜々子ちゃんなのだから…。

「早く行ってこいっ!」

しかし、そんな事だとも知らないお兄ちゃんは大声で怒鳴る。
いつもなら言い返す所だが、今日のお兄ちゃんは普段とは違い、もの凄い迫力だった。

「う、うん」

その迫力に圧され、急いで紙袋を持って外に出て行く。
なんで、こんな事になってしまうのか。

……少しだけ、お兄ちゃんを恨んだ。




―――




ぽつぽつと歩いて、幕之内さんの家の前に着く。

(帰ってるのかな…)

電気が付いている所を見ると、誰かは居るようだ。

(幕之内さん、いるのかな)

心の中で、どうかいませんようにと唱えながら戸を数回叩くと。

「はーい、今開けまーす」

戸の向こう側から、幕之内さんの声がした。
思わず息を呑んで固まってしまう。
そしてその瞬間、
ガラッと戸が開いた。


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