Long Novel

□Valentine's Day T
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「ただいま」

体を震わせながら家に帰ると、既にお兄ちゃんが帰っていた。

「おぅ」

「あ、お兄ちゃん。
今日早かったんだね」

私は何事も無かったかのように、自然を装って晩御飯の準備を始めることにする。
…と、その前に。

「…あ、そうそう!はい、これ」

先にお兄ちゃんに、バレンタインのプレゼントを渡すことにした。
プレゼントは、スポーツタオルだ。

「なんだよ、これ」

「タオル!しかも名前の刺繍入りだよ。今日バレンタインだから!」

「そうか…そういやそんな日があったな。
久美が刺繍入れたのか」

「うん!」

「…そうか」

「あと…これも!」

一瞬チクっとした胸の痛みを我慢して、マフラーの入った紙袋も渡す。
もう、私が持っていても仕方ないからだ。
捨てるのも、勿体ないし…。
すると、紙袋の中身を見たお兄ちゃんの顔色が、一瞬変わったような気がした。

しばらくの、沈黙。
お兄ちゃんはじっと中の物を見つめたまま、ぴくりとも動かない。

「お兄ちゃん?」

「…らねぇ」

「えっ?」

「いらねぇよ、こんなもん」

その一言に、少しだけショックを受ける。

「あ…そうか。
お兄ちゃんって、あんまりマフラー巻かないもんね」

「ちげぇよ」

「…っ?」

するとお兄ちゃんは、じっと鋭い眼差しで睨んできた。
そんな表情に、思わずたじろいでしまう。一体なにが違うというのだろうか。


「他の男の為に作ったもんを、やすやすと貰えるか」

(あっ)

ようやく理解した。

なぜかは分からないが…お兄ちゃんは知っていたのだ。
このマフラーが何なのか、私が誰に渡すつもりの物だったのかを。


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