Long Novel
□Valentine's Day T
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「え、マジかよ!」
「だって一歩には久美ちゃんが…」
突然自分の名前が出てきたことに、心臓が飛び跳ねた。
「一歩さんは、もう貰ったんですかぁ?」
「え?いや、まだだけど…」
すると次第に中の声が小さくなり、聞き取り難くなる。
会話は、途切れ途切れにしか聞こえてこない。
「一歩さんは…わたしの事、…ですか?」
「いや、そんな事は…」
この壁の向こうでは、一体何の話をしているのだろう。
気になってしまう私は、もどかしい気持ちでじっと静かに耳を澄ます。
「じゃあ……なんですか」
「えぇっ!?…あぁ…いや、まぁ」
「もっとハッキリ言って下さいよ」
「え、でも…。いやぁ…なんというか」
そして、しばらく静かになった。
幕之内さんは、菜々子ちゃんに何と言っているのか。
気になる、気になる…!
「…うん。好きだよ」
(えっ)
不意に耳に入ってきた幕之内さんのその言葉に、一瞬目の前が真っ白になった。
胃の辺りが冷やりとした感覚に襲われ、呆然とその場に立ちすくんでしまう。
…そうだったのか。
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